【HoloLens2完全解説】先代モデル、Magic Leap Oneとの比較から進化を大解剖
マイクロソフトは新型MRヘッドセット『Microsoft HoloLens 2』を発表しました。
視野角は従来モデルの2倍に広がり、リアルタイムトラッキング機能やジェスチャー機能が強化された次世代型のIoTデバイスとしての性格が強くなっています。
今回は、そんなHoloLens2を
- そもそもHoloLensってどんなデバイスか
- 先代(HoloLens1)から何が進化したのか
- Magic Leap Oneとの違いはどうか
といった点からスペックや価格、将来性まで徹底解説していきます。ぜひ最後まで読んでみて下さい!
Contents
「HoloLens(マイクロソフト社)」の概要、開発者など
HoloLensはマイクロソフト社が誇る天才、アレックス・キップマンが開発したMRヘッドセットです。
HoloLens2の発表会では、MR空間に出現させたキーボードを弾くデモを行っていましたが、2015年にマイクロソフトがHoloLensの最初のデモを公開した際、目の前に浮かび上がるホログラムをジェスチャーで操作したり、触ったりすることができるという内容に「こんな夢のようなことが現実にできるわけがない」と疑う専門家さえ存在しました。
※引用元:Microsoft HoloLens 2 Demo – Mobile World Congress 2019 (Julia Schwarz)
(5分32秒頃からです。是非音声ありで確認してみて下さい)
初代HoloLensは2016年3月に発売されましたが、先行したOculus RiftなどのPC接続型と異なり、本体にCPUやGPUとホログラフィック・プロセッサが内蔵されているスタンドアロン型のケーブルレス透過型ヘッドセットとして、主に業務支援用途に独自のポジションを確立しました。
※参考記事:スタンドアローンとは?メリット・特徴について
後継機であるHoloLens 2は2019年2月24日にスペイン・バルセロナにて開催されたマイクロソフトのイベントに正式に発表されましたが、 HoloLens 2はスペック的にも大幅に改善が行われ、また従来よりも産業用途にフォーカスしたデバイスになっています。
HoloLensの開発者であるアレックス・キップマンが脚光を浴びたのはKinectのモーションコントローラーの開発によるもので、2010年に発売されたこのデバイスは爆発的にヒットしました。
彼の功績は外部にも知られることになり、ファストカンパニー誌は「2011年ビジネス界で最もクリエイティブな1人」として、タイム誌は「2011年のトップナード25人の1人」としてキップマンを選出しています。
※HoloLens1のスペックや評判、使用方法などの詳細はこちら→
AR/MRの本命「HoloLens」のスペック・評判・使い方/事例など徹底解説!
【5点から解説】Hololens 2のスペックと初代Hololensとの違い
今回発表されたHoloLens2は初代HoLolens2の正統進化版で、噂された低価格化は実現しませんでしたが、大幅な改良が加えられました。
大きな進化のポイントとしては、
- 視野角・解像度がそれぞれ2倍になり、視覚体験が大幅に改善
- 5本指の追跡・アイトラッキングの実現などによる操作性向上
- Azureとの連携による開発ツールの大幅強化
- 本体の軽量化・装着部分の改善による使用感の向上
- 業務支援アプリをデフォルトで実装 / 開発環境の整備
の5点。また、HoloLens2 は明確に「産業用途向け」と打ち出され、長時間快適に、MR空間内で両手を自由に使うことで業務効率化を図ることを前提に設計されています。
それぞれ詳しく解説していきます。
1.視野角・解像度がそれぞれ2倍になり、視覚体験が大幅に改善
HoloLens2最大の改良点とも言える視野角、解像度。
従来モデルの視野角は40度程度と極めて狭かったのですが、これが約2倍に広がりました。
また、解像度は視野角1度あたり47ピクセルを表示可能となっており、従来の23ピクセルから倍に引き上げられました。
プロセッサはAtomベースから、クアルコムのSnapdragon 850に変更されており、処理性能と消費電力が向上しています。
※「視野角」「解像度」に関する参考記事:VR体験を左右する視野角と画質の関係
2.アイトラッキング・5本指の追跡の実現などによる操作性向上
ジェスチャー認識機能も強化されており、指5本の動きをすべてをトラッキングできるようになっただけでなく、眼球の動きを読み取るアイトラッキング機能が新たに搭載されました。
センサー類は主に4つで、
- 加速度センサー
- 角速度センサー
- 磁気センサー
- Azure Kinectセンサー
(Kinectの進化版、3で説明します)
これらにより周囲の環境と自分の位置や指の動きを把握させています。
また、虹彩認証を利用したWindows Helloの生体認証機能も搭載されており、Windowsへのログインも手を使わずに可能になります。
※アイトラッキングの最新技術やVR領域への応用事例集→
アイトラッキングとは?技術の仕組みやVRへの導入を企業・事例から解説
3.Azureとの連携による開発ツールの大幅強化
Azure Kinectは、その名の通りマイクロソフトのクラウドである「Azure」と連動するのですが、Azureで学習した内容をデバイス内で処理をさせます。
この複雑な処理はSnapdragon 850だけでは当然対応できず、HoloLens専用チップのHPU(Holographic Processing Unit)によって実現させているのですが、これのHPU2.0が非常に優れモノなのです。
4.本体の軽量化・装着部分の改善による使用感の向上
また、カーボンファイバーにより軽量化された本体は、背面のダイヤル部分を回して調節が可能。従来よりも長時間の装着が可能にしています。
加えてディスプレイ部分が跳ね上がるフリップアップ型になったことで、細かい作業時に簡単に現実空間に戻れるようになりました。
USB Type-Cコネクタを新たに搭載するなどインターフェイスも刷新しており、より業務利用に特化しているのが大きな特徴です。
5.業務支援アプリをデフォルトで実装 / 開発環境の整備
HoloLens2は産業用途色を強めたことで、「Dynamics 365 Remote Assist」と「Dynamics 365 Layout」と言った業務支援アプリケーションが発表され、作業手順をHoloLensを通して細かいビジュアルつきのガイドで指示できる仕組みが提供されます。
またAndroidやiOSといった非HoloLens環境でもMR空間を共有できる「Azure Spatial Anchors」もすでに発表されています。
さらにUnreal Engine 4のHoloLens向け提供もEpic Gamesから発表されたことで、開発環境はかなり整ってきたといえるでしょう。
Magic Leap OneとHoloLens2の違いは?スペック徹底比較
HoloLensはその先進性からライバル製品と呼べるものが少ないのですが、「透過型MRヘッドセット」として比較対象に上がるのはMagic Leap Oneでしょう。
製品に関する情報をほとんど開示しないまま23億ドル(2550億円)を調達したこの製品は、2018年8月8日に2295ドルで販売および出荷を開始しました。
※Magic Leap Oneのスペックや詳細 →
Magic Leap Oneのスペックや仕組み、活用事例を解説!
それではMagic Leap OneとHoloLens2を比較してみましょう。
HoloLens2 | Magic Leap One | |
---|---|---|
機動 | スタンドアロン (ゴーグルのみで動作) |
別途バッテリー必要 |
処理機能 | Snapdragon 850とHPU2.0 Azureと連携させて処理 |
NVIDIAのTegra X2ベース |
解像度 (片目) |
2K | 1280 x 960 |
視野角 | 水平方向:43度 垂直方向:29度 対角方向:52度 |
水平方向:40度 垂直方向:30度 対角方向:50度 |
コントローラー | 無 | 有 |
1.パワーパフォーマンス:HoloLens2優勢
まず、HoloLens2がゴーグル本体のみで動作するのに対し、Magic Leap OneはゴーグルとLightpackというプロセッサとバッテリーを内蔵した本体に分かれています。
初代HoloLensとの比較ではAtomベースのHoloLensに対し、NVIDIAのTegra X2ベースのMagic Leap Oneが優位でしたが、Snapdragon 850とHPU2.0に加えてAzureと連携させて処理をするHoloLens2が巻き返したと見るのが妥当でしょう。
2. 視覚体験(解像度・視野角):若干HoloLen2に軍配
また、Magic Leap Oneは分離型のためゴーグル本体は比較的軽量なのですが、Magic Leap Oneの問題によく上がるのは「メガネをかけたまま装着できない」ということでした。
※この課題に対し、現在ではMagic Leapは視力が低い方向けに、度付きレンズに交換できるようになっているそうです(参考レビュー)。
視野角はHoloLensの40度より少し広い程度のようです。
Magic Leap Oneに関してはスペック情報があまり公開されていないのですが、リーク情報ではMagic Leap Oneは水平方向に40度、垂直方向に30度という事でした。
上の図は各デバイス(HoloLens、HoloLens2、Magic Leap One)の視野角を示したもので、若干ではあるものの、HoloLens2が優勢であることが分かるでしょう。
また、解像度自体も片目2Kを実現したHoloLensの方が優れています。
よって解像度・視野角どちらもHoloLens2が優勢にあります。
3.操作性:用途次第
操作性に関しては、完全にコントローラーなしで利用できるHoloLens2に対し、Magic Leap Oneはコントローラーを利用します。これはMagic Leap Oneがエンタメ系の利用の用途をある程度前提にデザインされ、一方HoloLensが産業用途を前提に設計されていることが背景にあります。
HoloLens2はMR空間上に出現するボタンやレバーを触って操作することが実現できているため、コントローラーは必要ありません。これは両手を開けて作業する用途を強く意識したHoloLens2ならではの特徴と言えるでしょう。
一方で、Magic Leap Oneはコントローラーを使用することで「Magec Leap Oneの視界に入っていない範囲まで手の動きのトラッキングができる」という強みがあります。
よってコントローラーを使用することが一概に機能として劣っているとは言えないため、もはや用途次第であると言えます。
まだ発売されていないHoloLens2とMagic Leap Oneを比較するのは少々気が引けるものの、HoloLens2は期待を裏切らない進化を遂げたといえるのではないでしょうか。
※HoloLens、Magic Leap One含めたMRヘッドセットのスペック比較→
【MRヘッドセット比較】選び方・おすすめ人気機種3選を解説!
HoloLens2の価格・購入方法は?
HoloLens2は産業用途を強く意識しており、価格体系も
- 単体では3500ドル
- Microsoft Dynamics Guideとの組み合わせで月額125ドル
という価格設定がされています。発売予定は2019年中とのことで、販売対象国は米国、日本、中国、ドイツ、カナダ、イギリス、アイルランド、フランス、オーストラリア、ニュージーランドが含まれています。
既に日本でもデバイスの予約を受け付けていますが、現時点では電話のみの受付となっており、プレオーダーページへのリンクは現在削除されています。
なお、電話番号についてはHoloLens 2の公式サイトから確認できます。
※公式サイト:https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/buy
Hololens2を用いた活用事例3選
HoloLens 2は産業用途にフォーカスして設計されており、箱を開けたときからすぐ使えるアプリケーションがマイクロソフトにより提供されます。
現場での用途としてニーズが高い「レイアウト」や「リモートアシスタント」がDynamics 365を通じて現行のHoloLens用に提供されていますが、HoloLens 2ではこれらも最適化されて利用可能になります。また、作業内容などマニュアルや操作方法を表示する「Dynamics 365 Guides」も発表されました。
1.製品を目の前にしただけで取扱説明書を表示する(PTC社)
まずはこちらのトレーラーをご覧下さい。
「Vuforia Studio」というモデリング・ソフトを開発したPTCは、彼らの顧客であるHowden社と、クラウド・プラットフォームのMicrosoft Azureからデータを引っ張り出し、製品を目にしただけで取扱説明書をMR空間に表示させる技術を開発しました。
これにより非熟練技術者でも作業手順を間違うことなく操作をすることが可能になっています。まさに労働力不足に悩む日本の現状にマッチしたソリューションと言えるでしょう。
2.建設工程の可視化(Bentley Systems)
こちらは建設業界にHoloLens2を活用した事例になります。
「Microsoft Azuree」を基盤とし、建設業界向けのソフトウェアを展開するBentley Systems社が、HoloLens2を通じて建設作業のデジタルツインを可視化するソフト「SYNCHRO XR」を発表しました。
HoloLens2を装着することで
- 建設作業
- スケジュール管理、作業進捗管理
- 安全要件
- 建設現場のリスク管理、サジェスト
といったことが視覚的・直感的に体感できるようになりました。
アレックス・キップマン氏はこのように述べています。
HoloLensの革新的な技術をベースとし、没入感と快適性が一段と向上。Bentleyなどのパートナー製品をそのまま組み込んで、業界最高レベルの価値を生み出します。複合現実パートナーであるBentleyとの協力により実現したHoloLens 2とSYNCHRO XRのソリューションをAECプロジェクトに活用すれば、これまでにない創造性とチームワークを発揮することができるでしょう。
この「ハンズフリーで様々な指示を受けられる」「情報を視覚的にインプットでき、かつインタラクティブ」という要素は間違いなく建設業界以外でもニーズが高く、今後業界横断的に様々な領域で活用されていくでしょう。
3.MR空間上に現れたキーボードを弾くデモ
これはHoloLens2の発表会で行われたデモンストレーションですが、スピーカーはMR空間上に現れたキーボードを弾くデモが行われました。
何気なく見えますが、これはまずMR空間上に3Dオブジェクトを固定する必要があり、更には微妙な指の動きを正確に読み取る技術が組み合わさらないと実現することができません。
これはHoloLens2がコントローラーいらずである特徴を支えている技術ですが、操作系のUIをすべてMR空間上に仮想的に設置することで両手を完全に自由にして作業することができるのです。
【まとめ】HoloLens2の今後の考察
初代HoloLens発表時にマイクロソフトが示した「夢の技術」を完全に再現したとはまだ言えないながら、HoloLens2は着実に理想に近づいたといえる仕上がりになっています。
VRグローブのオプションが存在しないため、当然ながらMRオブジェクトの触覚フィードバックはなく、透過型のMRデバイスである以上、空間内を歩いたり走ったりして進むには実際に歩かなければならないのですが、産業用途にターゲットを絞ったことでHoloLens2はその方向性が明確になりました。
Azureと組み合わせたIoTデバイスとして提供されるHoloLens2は、今後開発環境も整備されていき、ますます用途と利用シーンが広がっていくことでしょう。
最後に – ARの導入や活用に興味がある方へ
理想のMR技術に近づいたHoloLens2のご紹介はいかがでしたでしょうか。
しかし、ます。現実空間と仮想空間の境目がシームレスになることで、Magic Leap Oneもしかりながら、重要になるのは3Dコンテンツの制作技術になると思われます。この分野の技術者のニーズは大幅に増えるのではないでしょうか。
特にコントローラーが存在しないHoloLens2は、操作系UIのホログラムの使いやすさが生産性に直結するため、UIデザイナーの活躍するシーンが多くなりそうです。
また、XR-HubではVR・ARに精通した起業家による事業創造のコンサルティングも行なっております。
- ARやVRを、自社の既存事業 に導入することを検討している
- ARやVR事業を立ち上げたい
こんなニーズがある方にはコンサルティングを行なっておりますので、
もし「話だけでも聞いてみたい」と興味がありましたらこちらからお問い合わせください。
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