【5分で分かるVRの歴史】半世紀の技術進歩と今後の展望を紐解く
2012年の「Oculus Rift」発表で火が付き、2016年は「VR元年」と呼ばれ、大きな盛り上がりを見せているVR市場。
ここ数年の動きに見えますが、実は半世紀(50年)以上前にはVRという概念が生まれていたのです。
本記事では、VRの歴史をもう一度振り返ると共に、様々な分野で活用される現在の状況を紹介。さらに、今後の未来にどの様な展開を見せていくのかを探っていきたいと思います。
まずは、今後ますます身近になっていくであろうVRの歴史をもう一度振り返っていきたいと思います。
VRの歴史 : 半世紀の進化の歩みを振り返る
1968年:VRの前身となる技術が発表された
現在のVRと似た概念はかなりの昔から存在していました。
今から約50年前の1968年、アメリカの計算機科学者だったアイバン・サザランドが、現在のHMDの前身の様なシステム「ダモクレスの剣」を発表しています。
これは、天井から吊り下げられたヘッドセットを顔に装着すると、現実の映像とコンピューター上の画像が重なる様にして見え、頭を動かすと画面も連動して動くというHMDです。
両眼で立体的な映像を認知可能な技術や、ヘッドトラッキング機能に近い技術を備えていたのです。
1990年代初期:「VR」の概念の一般普及
VR(バーチャル・リアリティ/仮想現実)という概念が一般に広く認知される様になるのは1990年代になります。
そのきっかけとなったのが、後に「VRの父」とも呼ばれるジャロン・ラニアー氏が立ち上げたベンチャー企業「VP Research」が1989年に発表した「The Eyephone」と「The Data Glove」でした。
In 1989 two demonstrators show off early #VirtualReality headsets called “The EyePhone” #Apple how could you. pic.twitter.com/9LKMa9efHg
— Epic VR Channel (@bigpotplant) 2016年1月15日
この画期的なシステムは、現在のVRの基本構造である「HMDを通して、脳が認識する世界にデータグローブを使用して干渉する」という点を既に実現していました。
また、VRという言葉が初めて使われたのも、この「The Eyephone」発表時であると言われています。
しかし、価格が「9400ドル」と高額だった事などがネックとなり普及する事なく姿を消します。
1990年代:第一次VRブームの到来
この「The Eyephone」が先駆けとなる形で、1990年代には多くのHMDが発表されています。
日本国内では、任天堂が1995年に発売したゲーム機「バーチャルボーイ」を記憶している方も多いのではないでしょうか?
1995年当時では、ワイヤーフレームがしっかりしている3D映像のHMD型ゲーム機は非常に画期的でした。
この1990年から1999年あたりまでが「第一次VRブーム」とされています。
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1990年代は映画やゲームなどでCG技術が一気に一般化した時期でもあり、それに合わせる様にしてVR技術にも注目が集まりました。
しかし、当時のリアルタイムCG生成技術では利用者に十分な没入感を与えるには程遠く、また、値段が高額だった事もあり2000年に入る頃には次第にVRという言葉自体が使われなくなっていきます。
2012年:「Oculus Rift」の登場で再びVRが脚光を浴びる
再びVRという言葉が脚光を浴びる事になるのは2012年。
当時20歳の若き天才、パルマー・ラッキーがクラウドファンディングで約2億8,000万円の資金を調達して開発した「Oculus Rift」が発表されます。
それまでも技術革新に伴いいくつかのHMDは開発されていましたが、「暗闇の中に小さな窓が浮かんでいる様な不自然な視界が利用者の没入感を低減させる」という問題を解決できず、普及には至りませんでした。
しかし、Oculus Riftはレンズを湾曲した魚眼レンズにし、そのまま映すと歪んでしまう映像を逆算して最初から歪ませて投影し、視聴者の目には正しく映る様に開発されました。
この「湾曲系光学システム」よりOculus Riftは視界を違和感なく覆うことに成功しました。
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2010年代中期~:VR元年の到来・第二次VRブームへ
2014年、Oculus VR社がFacebookに約2400億で買収されると、VRへの期待感が加熱し第二次VRブームへと突入します。
Oculus Riftの湾曲系光学システムを活用したHMDは、技術的に難しいものではなく発想の転換によってもたらされた技術であったために、多くの企業がこれに追従しました。
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2016年には「Oculus Rift」の製品版を始め、HTC社の「HTC Vive」、SIEから「PSVR」など、ハイエンドモデルが立て続けにリリースされ「VR元年」とも呼ばれました。
この頃から、VR世界のリアリティや映像の質・VR体験のクオリティ等が瞬く間に向上していきます。
VRの現在:2018年の最新技術と最新機種
2018年現時点におけるVRの現状ですが、2016年「VR元年」を契機にいくつかの点でガラリと状況が変わった印象を受けます。
- 現在までコンスタントに様々な価格帯でのHMDデバイスがリリースされている
- VR対応のゲーム、VR体験型施設が急増
- 動画サイトでのVR専用の動画が配信が急増
- VR×不動産 VR×観光 など様々な産業・企業がVRを利用し始めている
など、様々な分野で一気に普及し始めている点が挙げられます。
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また、歴史的建造物や、秘境、さらには何らかの理由で既に失われてしまった場所へ「VR」技術を利用して訪れることが出来るという、あたかもSF世界の様なサービスも続々開始されています。
2018年最新機種:より自由なVR体験を追求した「Oculus Quest」
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VRにおける技術的な面でもハイスピードな革新が起こっています。
2018年9月26日、Oculusが発表した「Oculus Quest」は「399ドル」というハイエンドモデルとしては破格の価格設定ながら、今まではハイスペックPCを必要としていたハイレベルな没入感を、スタンドアローン型として実現しました。
「Oculus Quest」の開発コンセプトは「自由なVR体験」であり、PCやケーブルを一切廃して広い範囲を自由に動き回れるというVR体験を可能にしています。
従来はトラッキング用のセンサーを設置することで追跡していましたが、Oculus Questではディスプレイが周囲を認知するため物理的な障害を極限まで廃ています。
VR向けのハイスペックなコンピュータやトラッキング用のセンサーの設置が不要になったこと、そして価格を抑えていることでVRの民衆化を実現しつつあるVRデバイスでしょう。
そして何より極限までバーチャル世界に入り込めるため、本当の意味でのVR体験が進み、よりVRの普及が広がっていく事が予想されます。
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ただし、Questはモバイル向けのプロセッサを搭載しており、PC向けのGPUに比べてどうしてもグラフィック性能は低くなります。この点が今後の技術的課題と言えそうです。
VRの未来:課題と今後の展望/フルダイブとは
VRの未来への課題は?
加速度的に素晴らしい進歩を遂げるVR技術ですが、未だに克服すべき課題は多く残ります。
まずは「酔い」の問題です。VR技術の追求はその没入感に焦点が集まりますが、没入感が強ければ強いほど、極微妙な動きの違いやレスポンスの遅延によって、強烈な酔いをもたらします。
この最大の問題を克服するためにミリ秒単位での短縮を目的とした研究が重ねられています。
よりアクティブでシームレスなVR体験が可能になる
「OculusQuest」を発表した「Oculus Connect 5」ではHMDを装着した状態で、アリーナサイズの広いスペースで自由に動き回りながら、よりアクティブでスポーティなゲームを展開する事を目的とした「アリーナスケール」という概念が紹介されました。
Dead and Buried shows the arena potential for Oculus Quest https://t.co/gLONvVcb7h pic.twitter.com/6mE5UvRUDS
— Bilal Munir (@bilalmunir91) 2018年9月30日
この発表時に同時に発表されたのが、現実をヘッドセットを装着したまま見る事出来るという「MR(Mixed Reality)モード」でした。
このMRモードでは現実世界が白い世界に人や物が黒い輪郭で表現される形になります。
このMRモードからゲーム開始と共にVRの世界に徐々に切り替わっていく様子も表現可能であり、あたかもその瞬間に自分の体がアバターに変化したかの様な錯覚を味わえそうです。
この「アリーナスケール」と「MRモード」は現段階では実装される予定は無いとの事ですが、広い空間で実際に動き回って遊べるという点、現実と仮想空間をシームレスに繋いだ点などは、ある意味でVRの一つの目標地点にたどり着いた感があります。
VR技術の先へ~フルダイブとは
フルダイブとは、仮想空間内に五感を接続することで完全にバーチャル空間に入り込むことです。
ライトノベルの人気作品・「ソードアート・オンライン(通称SAO)」でご存知の方も多いのではないでしょうか。
フルダイブについては現在実際に研究が進んでおり、圧覚、低周波振動覚、高周波振動覚、皮膚伸び覚、冷覚、温覚、痛覚という7種類の感覚を組み合わせることで、ロボットを通じてすべての触感を再現する“触原色原理”というコンセプトを応用して、遠くのものを本当に触っているかのような感覚を得ることにすでに成功しているとのことです。
海外でも盛んに投資が行われ、Neurable社は脳波コントロールにより、VR空間のアイテムを掴んで投げて闘うアーケードゲームを開発中です。
Googleのレイ・カーツワイルは2030年にはフルダイブ技術が確立すると予測しており、今後急速に現実世界とバーチャル世界は分け隔ての無いものになっていくかもしれません。
「フルダイブ」の詳細はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
長い歴史を持ちなら、数十年にわたって前進と後退を繰り返してきたVR技術ですが、2012年の「VR元年」以降、爆発的勢いで技術革新と普及が進んでいます。それでも現時点では課題や障害も多く、まだまだ黎明期と言えそうです。
【VRヒストリー】1991年に話題をさらったHMD「The Eyephone」とは何か https://t.co/nplRBabfpe pic.twitter.com/FUT9FGv0aS
— VRonWEBMEDIA【公式】 (@VRonjp) 2016年12月12日
多くのSF世界で夢想され、多くの人が憧れた世界がすぐそばまで来ていると思うと興奮を抑えられませんね。
近年では触覚を再現する技術なども研究が進んでおり、遠からぬ未来、遠距離にいる人同士がVRを通して触れ合える未来も想定されている様です。
無機的なデータ上にリアルな仮想世界を作り出そうと追求して来たVRの世界に、人との触れ合いという温かな要素が加わった時、一体いかなる化学反応が起きるのか、今から楽しみで仕方がありません。今後の展開を楽しみに待ちたいと思います。
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