Psychic VR Lab CTO単独取材!VRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」開発の裏側と組織論
XR-Hubによる、XR業界の先駆者と知を共創するコンテンツ「XR Innovators Talk」第7弾。
今回は、VRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を運営するPsychic VR Lab社のCTO 藤井明宏さんに取材してきました!
プロダクトに込めた願いや同社の知られざる組織像、今後の展望など大変濃い内容となっておりますので、XR業界に関わる方や同社に興味がある方はぜひ最後まで読んでみてください!
※STYLY:Webブラウザ上から誰でもVR空間を作ることができる、クラウドプラットフォーム。Unityやblenderを始め、様々なソフトやSDKで作成したコンテンツをインポートし、独自のVR空間を簡単に作成できる(詳細)。
Contents
大手システムエンジニアからVRスタートアップCTOへ!異色のキャリアに迫る
早速ですが、藤井さんが入社されるまでのストーリーを教えていただけますでしょうか。
※以下、斜体灰色文字箇所は編集部の質問。
ハコスコでVRを初体験。VRの魅力に惹かれ、個人としてVR制作を開始
まず、私が初めてVRと出会ったのが2014年で、ハコスコというスマホで360度動画を見ることができるVRゴーグルでの体験でした。
確か体験したのはアイドルグループのコンテンツでしたが、演者の方のサービス精神を味わったことのない没入感で体感できることができ、VRに非常に魅力を感じました。以降自分でも360度の動画を作るようになりました。
その後、Twitter上でOculusという言葉が散見され始めたので、気になって東京の勉強会に参加したところ、エンジニアの方々が自作のVRコンテンツをデモして盛り上がっている雰囲気が素敵だと感じたんです。
そして、丁度その頃Unityが無料で全機能を使えるようになったので「これは手を出さない訳にはいかない」と思い、自分でOculus Rift DK2を購入してVRコンテンツを本格的に作り始めました。
CEO 山口さんとの出会い – CTOとしてSTYLY開発を決心しジョイン
それから、勉強会やオフ会のような集まりに私も頻繁に顔を出すようになり、初めて自作コンテンツをイベントでデモした時に、代表の山口と出会いました。
その後、山口と度々話す機会があり、一度誘いを受けてオフィスに遊びに行った際にSTYLYのプロトタイプを見せてもらいました。
私自身もVRのOS、プラットフォームは作りたいと思っていた中で、彼からアーキテクチャと構想の説明を受け、すでに実現性のある形でプロトタイピングされていたSTYLYに「VR Platformとしての可能性」を感じ、2017年の1月に弊社にジョインしました。
それまでは規模の大きい企業でシステムエンジニアをしていましたので、創業期のスタートアップへの転職は大きなキャリアチェンジでした。
この頃はまだSTYLYはプロトタイプ段階でしたが、私が入社した後から本格的に開発を始め、2017年の8月にオープンベータとしてリリースしました。
大企業のシステムエンジニアからスタートアップのVRエンジニアとはかなりのキャリアチェンジですね…。
XR業界に転職したいと考えているエンジニアの方々にとってロールモデルになりそうなお話ですね。
STYLY開発の裏側 -「4つの拘りのポイント」を徹底解剖!
VRコンテンツ作成のハードルを下げ、多くの人が作品を生み出せる環境を作りたい
当時どういった課題感からSTYLYを着想されたのか、お聞きしても宜しいでしょうか?
現在もそうですが、VRコンテンツを作るためのにはエンジニアリングの知識が必要であり、このことがVRコンテンツを制作することへの一般的なハードルを高くしていると感じていたんですね。
ただ、VR産業を発展させていくには、より多くのVRコンテンツが生まれるような環境を作りたいですし、そのためには今VR業界に触れていない分野の方々を巻き込んでいきたい。
そこで、「デザイナーや学生の方をはじめ、誰でも簡単にVRコンテンツを制作できる環境を作ろう」と考え、STYLYを開発するに至りました
特にSTYLYをファッション・アートなどにフォーカスして開発した理由は 今VRに触れていない広い層に使って欲しい という想いがあったからです。
なるほど。そのため最近はファッション関連の大学と提携などされているのですね。
ちなみに「まだVR体験していないユーザー層」に活用してもらうために拘っている点を教えていただけますでしょうか?
クリエイター目線にはなりますが、VRアプリはパフォーマンスが重要になりますので、各プラットフォームごとに専用アプリを提供しています。
STYLYは先ほどお伝えした考えが根幹にあるので、
- デスクトップアプリではなくブラウザ上で製作できるWebアプリケーションにしている
- インターフェースや機能面でシンプルさを追求する
- 多くのツールやサービス(BlenderやPoly、Youtube)との連携に対応させる事で、使い慣れたツールで製作した作品を容易に利用できるようにする
- VRコンテンツのシェア機能を搭載する
などを意識しており、誰でも手軽にSTYLYを使えるようにすることを徹底しています。
1, Webブラウザで使用可能である
正直な所、デスクトップアプリの方が簡単に作れるのですが、 Webアプリにすることでユーザにとっての利用の障壁をなるべく下げています 。
Webアプリであればインストールや環境構築が不要ですので、ユーザーの離脱リスクを一定抑えることが可能です。
2, 直感的に操作可能なインターフェース
2点目は細かい話ですが、 出来る限りUIのボタンの数を少なくしている 点です。
多機能なツールはインターフェースが複雑になりがちで、習得に時間が掛かり制作のハードルが上がってしまっていると思うので、ボタンを極力少なくしています。
ただ、ボタンを少なくすることは「STYLYで出来ることが限られてしまう」という事にも繋がるため、機能面とシンプルさのバランスの取り方は非常に難しいポイントで、日々社内でもディスカッションしています。
3, 様々なデバイスに対応させ、多くのユーザーにとって使用可能なプラットフォームに
3つ目は、マルチデバイスに対応している点です。
PC用のハイエンドなVRデバイスであるOculus RiftやHTC Vive、スタンドアロン型のDaydream、Oculus Goなど、多くのデバイスに対応しています。
(※DaydreamとOculus Goはストアに載せていないとのこと。Daydreamの場合Google Playからインストールしてもらい、Oculus Goの場合メールアドレスを運営に伝えると招待して使用可能になります。)
「とりあえず作ってみよう」で決まったLooking Glassへの対応
なるほど。最近作られたものとしては、どういったものがあるのでしょうか?
最近だと、裸眼立体視ディスプレイの「Looking Glass」でデモを作りました。
STYLYは現状VR向けのプラットフォームなので、「STYLYで制作した作品はLooking Glassと相性が良くないのでは?」と想定していたのですが、実際に制作して投影すると予想以上にクオリティが良くて、STYLYをLooking Glassに対応させることを決めました。
やはりVRやMRは、プロトタイプを制作してみるまで、デバイスとの相性や体験イメージはわからないものですね。
採用基準は「自分で自分の可能性を広げていける自走型」
なるほど、「自分から新しいものを作ったり、取り入れたりする」という能動性は、御社内のカルチャーとして強い要素なのでしょうか?
そうですね。
「自分で考えて、手を動かして、自分の可能性を広げられる人」 という点は採用基準の1つにしていまして、「過去にどういったVR/MRのアウトプットを作ってきたか」は必ず確認します。弊社は小さなスタートアップなので、1人が会社全体に与える影響はとても大きく、 他のメンバーが持っていないスキルがあるだけで会社の可能性は広がっていきます。
そのため「自分から様々なスキルを取り入れて、自分の可能性を広げていけるか?」という点はとても重要なんです。
今ではUnityも無料で使用できますし、学習環境も整っています。
数年前までは考えられなかった事ですが、VRデバイスもすぐに購入できる状況です。
VR系の企業に所属していなくても「VRに対する強い好奇心や想いからすでに何らかのアウトプットを作っている」ぐらい自走性がある方だと、組織の可能性は一層広がっていくと思っています。
この採用基準があるからこそ、 現在の弊社に在籍しているメンバーは本当にバラエティー豊か というか、各々が尖ってますし、日々各々が凄いスピードで進化しているエキサイティングな組織で…こんな多彩なメンバーと働けていることを誇りに思っています。
プロダクトへの共感が生む、「異能人材」の採用
現在、社内にはどういったメンバーの方々がいらっしゃるのでしょうか?
まずエンジニアだと、サーバーサイド、そしてUnityエンジニア・Webエンジニアが合わせて9名います。
徐々に人数も増えてきていて、優秀なエンジニアが集まってくれています。
他にもUXデザイナー、アーティストとして活動している者、VR系メディアの立ち上げ編集長でオウンドメディアでSTYLYを盛り上げている者など。
最近だと北海道のXRコミュニティを立ち上げた行動力のあるエンジニアのメンバーが入社してくれました。
エッジの効いたキャリアを持つメンバーが増えてきていますね。
おぉ…百戦錬磨級の方々が多く参画されているのですね…。
そういった方々は、主にどういった点に魅力を感じて入社されるのでしょうか?
それはやはり「プロダクトや思想への共感」が大きいと思います。度々説明してきましたが、STYLYの成長はVR業界の成長にも貢献できると信じていますし、「クリエイターの可能性を広げるサービス」というのは社会的意義もあり、やりがいのある事業です。
他にも個人的には、最新のデバイスや様々なアップデートに対応させつつ、STYLY自身もアップデートを繰り返し、成長させることができる点は面白いと感じてますね。
CEO 山口氏の意向から、オープンでフラットな組織に
(躍動感があり過ぎてブレてしまった山口代表。帰り際には編集部を出口までエスコートしてくれるとても紳士な方でした)
組織の文化や風土として、他に特徴的なポイントはありますか?
代表の山口の意向もあって、上下関係のないフラットな組織であることが特徴です。
少なくとも自分はメンバーの意見や考え方を尊重して進めます。
やはりスタートアップですし、 メンバーがそれぞれ明確に「やりたいこと」があって入社しているんですよね。
なので極力メンバーの意見に耳を傾けるようにしていますし、自分も基本的にオンラインでもオフラインでもしっかりと意思を伝えるようにしています。
あと、オープンな組織であることも特徴です。
飲み会は社外の人も積極的に呼び込みますし、オフィスも社外から様々な方が遊びに来ます。
なるほど、上下関係のないフラットな企業文化が、社員の皆さんの才能を更に引き出しているわけですね。
今後の展望 – Psychic VR Labが描く未来の「STYLY」
それでは最後に、御社の今後の事業ビジョンを教えていただけますでしょうか。
ユーザーボイスとビジョンのバランスを取りつつ、STYLYをプラットフォームとして成長させる
まず「STYLYを成長させていく」という点は今後も変わりませんが、形は徐々に変化していくと思います。
STYLYというプロダクトは、クリエイターの方々がプラットフォーム上で制作してもらえてこそ成立するので、クリエイターの方々の声と向き合い、ニーズに合わせて形を変えていくべきだと思うんです。
自分たちの思いも大事にしつつ、自分たちの視点だけでプロダクトの開発を進めないように、ユーザーからのフィードバックとのバランスを取るようにしています。
もはや死角なし?STYLY MRの比重も引き続き強化
現在STYLYはVRメインのプラットフォームですが、今後はMRの比重も増やしていきます。
HoloLensのアップグレード版である「HoloLens 2」やMagic Leap One、KDDIと提携したnreal lightなど、着実にMRデバイスも登場し始めてますし、今後もさらに登場すると思いますので、STYLYもしっかり最新のMRデバイスに対応していく予定です。
そもそも、我々としてはVRとMRを分けて考えていません。
だから、今のSTYLYのアーキテクチャーは変えずに対応デバイスを増やしてVRとMRの両方に対応できるようにする予定で、まだ一般公開していませんがHoloLensとのMR連携機能も開発が進んでいるところです。
すでにHoloLensへの対応が決まっているんですね!
マルチプラットフォームとして成長し続けるSTYLY上の様々なVR/MR作品を、今後も楽しみにしています!
最後に、メッセージ。
最後に、XRに興味を持っているクリエイターの方々に向けて、メッセージを頂いても宜しいでしょうか。
自分がこの会社にジョインした時はVRそのものの知名度が低く「この先VRが来る」ということでさえ不確実な状況でしたが、「VRを広めたい、世界に浸透させたい」という一心でこの世界に飛び込みました。
そして2年以上経ち、大きく環境は変わりましたが、まだテクノロジーとしてのベストな使い方や産業の未来像は見えていない部分が多いです。
そういう不確実な未来を一緒に探していける心強い仲間と一緒に働けたら良いなと思っています。
STYLYも今後も新しいことに挑戦し、プラットフォームとして進化させていきますので、新しいものを試し続け、これからも新しい発見を一緒に楽しみましょう!
まとめ
最後までご覧頂きまして、ありがとうございました!
今回は、Psychic VR Lab社 CTO 藤井明宏様にインタビューさせて頂きました。
VR/MR業界の発展を引き寄せるため、常に様々な技術を取り入れてプロダクトを磨き続けるPsychic VR Lab社の熱意と挑戦には、業界に関わる多くの方々が共感できるのではないでしょうか。
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XR-Hubでは今後も「XR企業のリーダー達のインタビュー」を通じて、読者の皆さまに有益な記事を提供して参ります。
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