【3分で分かる!】ARクラウドの概念から仕組み・応用事例まで解説!
Apple、GoogleなどIT業界の巨人達がこぞって投資し、熱気を帯びるAR業界。
そのAR業界が全人類に普及するための牽引役となるのが「AR Cloud」と呼ばれる技術です。
本日は
- ARクラウドの基礎技術の解説
- この技術が誕生した背景
- ARクラウドを開発するスタートアップ企業
- ロボット工学やスマートシティとARクラウドの関係性
などについて詳しく解説していきたいと思います。
Contents
ARクラウド(ARCloud)とは何か
ARクラウドの基礎技術の詳細は後ほど解説するとして、一文で説明するなら「時間、空間、デバイスを越えて、一貫したARエクスペリエンスをユーザーに提供するためのリアルタイム空間マップ情報」です。
シリコンバレーの投資家達は15年後、ARクラウドの価値は現在の「Facebookのソーシャルグラフ」「Googleの検索インデックス」に匹敵する程のソフトウェアインフラになると予想しています。
なぜ、ARクラウドはそれ程までに価値があるものと見られているのか、じっくり見て行きましょう。
ARクラウドが生まれた背景
世界のAR開発者に対し、AppleがARKitを提供し、GoogleはARCoreを提供しましたが、現在のAR体験にはユーザー同士のインタラクティブ性がなく、定期的に使いたくなるようなソーシャル要素が欠如しています。
デジタルオブジェクトを自分のリビングに置いて一人で楽しむ事は出来ますが、そのオブジェクトを友人A君は自分のデバイスを通じて見ることは出来ません。
これは、空間情報をリアルタイムで共有するコンポーネントが存在しないからです。
つまりARの世界は、例えるならば「ユーザーが1人しかいないネットをサーフィンしている」ような状態です。
しかしAR Cloudはこの閉ざされた個人のAR体験を、全人類が同時に、リアルタイムで共有出来るようにするポテンシャルを秘めているのです。
AR Cloudの基礎技術
AR Cloudは米国のAR投資ファンドのSuper VenturesのOri氏によれば、以下3つの機能を含む基礎技術のことを指します。
1つずつじっくり見ていきましょう。
1.実世界の座標に紐づく、永続的かつ、共有可能な点群(ポイントクラウド)の保有。
ARクラウドの1つ目の要件は、簡単に言うと現実世界の空間、物体情報の三次元(X軸Y軸Z軸の座標データ)をスケーラブルな形で保有することです。
現実世界の三次元座標データ
Facebookのソーシャルグラフ同様、この「現実世界のコピー」という座標データ資産をいち早く掌握した会社が次のAR時代の覇権を握るというのがシリコンバレーの共通見解です。
が、その難易度は非常に高く、ARクラウド関連のスタートアップは現実世界の情報を収集するために、APIやSDKを活用したり、3Dモデルの情報をプロバイダから購入したり、スマホの深度カメラを活用したりと様々なアプローチを模索しているのが現状です。
2.複数デバイスが瞬時に、正確に点群の絶対位置を把握(ローカライズ)出来る機能。
ARクラウド2つ目の要件はカメラの位置や向いてる方向を推定することで、空間座標に存在するコンテンツ・情報にリアルタイム対応する機能のことです。
道路の標識などをイメージしてもらえれば分かり易いかもしれませんが、物体は視点の角度によって、見え方が異なるため、物体Aに対して”右から見た時”と”正面から見た時”で、作成者の意図を汲み取った形で表示しなければなりません。
この物体と視聴者の位置関係を正確に把握するためには、スマホのカメラが捉えた情報(特徴点)と、ARクラウド上の情報を照合することで、正確な位置と角度を把握することが必要なのです。
この即時ローカライズを実行する方法として、デバイスの向きをGPSによる位置情報やWi-Fi信号を用いた三角測量などを用いて特定する方法や、スマホからの画像から位置推定を行う「VPS(Visual Positioning Service)」という手法などが存在します。
これらは今後のコンテキストデータをAIに学習させ続けることで、精度は高まって行くと見られています。
※参考記事:iPadにも搭載!リアルタイムで現実空間のポイントクラウドを取得するセンシングデバイス「LiDAR」とは
3.オブジェクトをクラウド上の点群に配置し、リアルタイムかつインタラクティブに共有出来る機能。
最後の機能は、バーチャル空間の3Dオブジェクトを、複数プレイヤーで閲覧したり、インタラクティブに干渉出来るようにするというものです。
例えば、「デジタル空間上にモンスターを配置し、4人が魔法使いとなって戦うARゲーム」を想定したときに、モンスターの向いてる方角と、4人の位置関係は常にリアルタイムで整合性が取れてなければなりません。
このあたりはナイアンティック社が発表したこちらのゲームが非常に分かり易いでしょう。
(25秒あたりから始まります)
ちなみにARクラウドが描く世界は、膨大なデジタルデータの流通が生まれるのですが、それを補うのが5Gネットワークです。
ARクラウドによる現実の拡張は
- 【通信ネットワーク技術の進化】
- 【スマホデバイスの高機能化】
- 【現実世界の認識システム・コンピュータービジョン(AI)の進化】
という水平的な複数領域の技術進化が相まって、ようやく実現可能になってきた世界なのです。
ARクラウドを加速させるスタートアップ達
それでは最後に、ARクラウドを開発する海外企業を紹介いたします。
6D.ai
こちらはオックスフォード大学の学生達が立ち上げたスタートアップです。
すでに資金調達は終えており、バリエーションは未公開ながらARクラウド業界内での知名度はトップクラスという最注目の新興企業と言えるでしょう。
6D.aiはAR開発者向けの完成度の高いSDKを配布するソフトウェアツール会社で、特徴としては、深度センサーなど使わず、一般的なスマホの単眼カメラで、あらゆる3Dモデルのオクルージョン(物体の前後関係を反映した視覚化技術)や複数デバイスへの対応、空間上への永続的な配置など、ARクラウドに必要な機能要件を軒並み揃えている事です。
使い勝手の良さはすでにツイッター上でも評判になっています。
https://t.co/oC0lZPTL2tに感激しちゃって仕事から帰っても触っています
仮想の玉が物と物の間に入っていく感じとか机から玉が転がり落ちる感じとかもはや美しささえ感じてしまう
単眼カメラでここまでできるの本当に素晴らしい pic.twitter.com/kyL08azcc8— ARおじさん@heymesh (@AR_Ojisan) 2018年7月21日
学生チームによる創業ながら、元サムスンのAR研究開発チームであるマッド・ミエズニックス氏やソーシャルVRの先駆けとも言える「Altspace VR」共同設立者であるブルース・ウッド氏などが名を連ねていることも6D.aiの技術力の高さが伺え、今後も最注目の会社です。
Blue Vision Labs(2018年末にLyftが買収)
Blue Vision Labsは、開発者向けのARクラウドツールAR Cloud SDKを提供する会社です。
AR体験がシングルプレイヤーに閉じているがゆえに、爆発的に普及しづらいという仮説は冒頭にて説明しましたが、AR Cloud SDKによってAR開発者は複数ユーザがAR体験を共有することができるアプリを簡単に開発することができます。
本社はGoogleから15億円の資金調達を実施し、ここまでステルスで進めてきたためあまり情報が開示されませんでしたが、このAR Cloud SDKの発表を機にARクラウドを牽引するトッププレイヤーとして認知されています。
そんなBlue Visionですが、2018年10月に米国の配車サービスを手がけるLyftに約80億円で買収されました。この背景にある狙いは何か?次の章で説明しましょう。
ロボット工学とARが急接近する?LyftによるARクラウド企業買収の狙い
ARクラウドが3D空間マップであり将来のインフラになるということはお伝えしましたが、ARクラウドと最も相性がよく、産業ポテンシャルが高いのはレベル5の完全自動運転産業です。
現時点における自動運転技術は「GPS」を基盤にしていますが、GPSの精度ではどうしても2~3メートルほどの誤差が生じてしまうのは避けられません。
この数メートルの誤差が、全自動の物販の配達や配車サービスにおいて致命的にユーザー体験を損なうため、事業として成り立ちづらい側面がありました。
しかしARクラウドを用いることで、この誤差を数センチメートルまで圧縮することが技術上可能になります。
近い将来
- 完全自動運転のドローンによる物流サービス
- 完全自動運転の車による配車サービス
といったものが出てくるとき、それらのサービスはどこかの企業が提供するARクラウドの空間データを利用せざるを得ない構造が生まれます。
このようにARクラウドというAR技術と全自動ロボット工学は近い将来、急速に近づいていくはずなのです。
Blue Vision買収によりLyftのビジネスモデルが昇華した
ARクラウドを自社で作るためには世界中の撮影データが必要ですが、配車サービスで提供するLyftの車はフロントにカメラを取り付けることで、街の空間データを取得する撮影機能を持つことになります。
つまり彼らの今後の事業展開として
- 配車サービスで膨大な撮影データを取得する
- 取得したデータをBlue Visionの技術でARクラウド化
- ARクラウドを外部に解放し、従量課金によってマネタイズしていく
という狙いがあるはずです。
そして何よりミソなのが、 ⑴の「屋外の撮影」という一般企業ならコストが発生するプロセスを「配車したユーザーに課金させることで、利益を生みながらデータ取得できるスキームがある」 というのがLyftの非常に強いところでしょう。
このあたりまで踏み込んで考えると、彼らのビジネスモデルがいかに優れたものに昇華したかお分りいただけたかと思います。
AR Cloudで実現される未来
それでは最後にARクラウドによって実現されうる未来の世界を箇条書きで簡単に予測してみましょう。
街中で共有されるCGMコンテンツ
ARクラウドによって、世界全体が巨大なキャンパスとなり、あらゆる人が自分達の創造物を現実空間上に描けるようになります。
友達が描いた絵、その場所で過去に撮影された写真/動画など、時を越えて友達に共有出来るようになるかもしれません。
優れた地図案内体験
目的地までの道のりが、スマホのディスプレイから解放され、目の前の矢印となって皆さんを目的地までナビゲートしてくれるはずです。
人類はARクラウドの発達と共に「迷う」という言葉から解放されるかもしれません。
没入型ARゲーム
先ほど、「敵キャラとの対戦ARゲーム」という例を出しましたが、リアルタイムで共有されたARコンテンツは巨大なソーシャルアクティビティ産業や新しいスポーツ産業を生み出す可能性があります。
日本初のARスポーツゲームを提供しているHADOなどもその一例でしょう。
ディスプレイ検索いらずの世界
「いまこの近くで美味しいイタリアン」「この近くの猫カフェ」という検索は、ARグラスの登場によって音声入力が一般的になり、位置情報は全て現実空間の世界に重ねられるようになるでしょう。
そうなると、もはやディスプレイ上で、指を使って検索する頻度は劇的に少なくなって行くかもしれません。
ARコマース
割引セールされている商品などが、位置情報と連動してすぐに把握出来るようになります。
もしくはスタンプラリーのように、「このお店の前まで行けば、ゲームの貴重なアイテムがゲット出来る!」というような「クーポン × ARゲーム」という業態が登場するかもしれません。
まとめ(XR-Hubでは無料コンサルティングを行なっています)
AR時代を牽引するためのARクラウドという土壌は加速度的に用意されつつあるようです。
本記事で紹介したプラットフォーマー達の製品がブラッシュアップされるほど、ARアプリ開発者達の創造性が解き放たれるようになってくるため、今後もARクラウドの技術革新から目が離せませんね!
今後もXR Hub編集部ではARクラウドの動向をウォッチしていきます。
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