AR技術が建築現場を変える-建築のイノベーションと最新の実用化事例


拡張現実(Augmented Reality)技術(以下、ARと記載)は現在、研究が国内外で非常に盛んです。主に欧米企業の取り組みが先導していますが、日本企業でもARの研究や応用が進んでいます。

日本の建築業界では、1980年代以降、CAD(Computer Aided Design:コンピュータによる設計支援システム)やCG画像を用いた橋梁、ダム、建築物の完成予想図作成や、ウォークスルーのプレゼンテーション に取り組んできました。

他の業界に先駆けて積極的にIT技術を導入してきた建築業界では、ARの研究開発にも熱心です。

設計・企画、施工・保守の各場面で、すでにARを使った顧客満足度や業務効率の改善につながるソリューション提供にいたった企業が現れています。本記事では実用化済み、またはサービス開始直前の事例について見ていきます。

ARが起こす建築業界へのイノベーション

ARの導入は、住宅・不動産会社や建築事務所にとって、顧客満足度の改善につながります。

建築分野で使われるAR技術は、以下の2点大別されます。

  • 企画・設計段階
  • 施工・保守段階

企画・設計段階のAR

こちらで最近よく取り上げられるのが、景観シミュレーションです。

周囲の景観とどう調和するかなど、建物の完成後のイメージを住宅会社、建築事務所や不動産会社、クライアント間で共有でき、あとあと「こんなはずではなかった」とクライアントから不満を抱かれるなどのトラブルや再工事を避けられます。

また、物件購入予定者への営業説明やコンペのプレゼンテーションなどで用いれば、自社のアピールになり、他社に対する競争優位になるでしょう。

建物の改装や新築、特に住居の新築は、多くの人にとって人生の一大イベントである一方、建築の知識のない依頼者にとっては建築会社との詳細な交渉は難しく、細かい点は任せるしかないことが多いと思います。

そこでARを使って自分たちの希望をうまく伝わることができれば、認識のずれもなく、完成後の満足度も上がるでしょう。

XR-Hubでは建築現場のAR導入の無料コンサルティングを行なっています。お気軽にご相談ください。

景観シミュレーションの事例(東京農業大学)

民間企業ではなく大学ですが、景観シミュレーションの事例をご紹介します。

このプロジェクトは、東京農業大学世田谷キャンパスの広場が対象地でした。

大学所属の研究者が、新研究棟の建築にあたって、AR技術を用い、スマートフォン付属のカメラで広場に仮想の新研究棟の3DCGモデルが建った様子を表示させ、竣工時の景観をシミュレーションするというものです。

新研究棟に移転してくる研究棟の延床面積の総計を計算して、新研究棟の延床面積はその値を上回るように設定して、3DCGモデルを作成しました。

また、新研究棟の外観には様々なパターンが想定されたため、計5種類の3DCGモデルが作成され、それぞれにシミュレーションが実施されました。

3DCGモデル

 

その結果、新研究棟が建てられた後の景観に対して、現実に近い形でのシミュレーションが達成され、眺望の確認や、圧迫感の度合いなどを確認することができました。

引用元:「拡張現実(AR)技術による景観シミュレーション─東京農業大学世田谷キャンパス新研究棟を事例として─」東京農大農学集報,62(1),40-46(2017)

國井洋一・大輪叡史

施工・保守段階のARソリューション – 事例4選

そして、ARを使うことで、建設現場の業務効率の改善や安全性の向上を実現できます。具体的に、どのような効果があるのか見ていきましょう

Daqri社のウェアラブルAR「スマートヘルメット」

アメリカの土木建築企業・Moetenson社は、2007年からAR技術を自社サービスに活用し始めました。

同社と共同研究するDaqri社では、まるで一昔前の近未来映画を思わせる機器で、建築現場のハイテクな未来像を提示しています。

作業者の目を覆うプラスチックのパネルは、単に目を保護するだけではなく、ディスプレイで、視野を共有することが可能です。

例えば、オフィスにいる他の技術者が、装着しているスタッフに遠隔で指示を出すこともできます。

危険な温度を察知する機能や、その日の手順書を受信して閲覧する機能もあります。

壁の向こう側を、あたかもX線で透視するように見通すことができ、BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)を活用できます。

また、最近ではDabri社はより軽量なスマートグラスの販売に注力しています。

現場の作業員の安全性向上ツール – Atheer, Inc(カリフォルニア)

カリフォルニアにある競合のAtheer, Incも同様です。

また、ARの導入による、現場(完成物件)の安全性向上効果も見過ごせません。

人間の目ではうっかり見過ごしそうな施工ミスやそれにともなう危険性も、機器が警告を発してくれます。

ar建築応用

例えば、上の画面では、幅が31.75cmしかない場所を見つけ、通路幅は32cm以上ないと危険だという警告を表示しています。

機器が認識した問題をデータベース化して、現場の情報を他部署に共有しやすくなります。

AR技術が建築現場にもたらすメリットとは

第一に、「情報共有の徹底」が挙げられます。

工事にはたくさんの関係者がいますので、情報共有を確実にすることで、危険個所の見逃し、発見された問題への対応忘れの撲滅にもつながります。

経験の浅い作業者でも安全で効率的に工事を完了できるようになるでしょう。

そして、時間と人件費の削減にもなるので、長期的には施工費の削減も期待できます。

土木向けARサービス「Kom Eye AR(コムアイエーアール)」

面白法人カヤックとコマツが協業し、土木向けARサービス「Kom Eye AR(コムアイエーアール)」を8月に開始します。

このサービスは、2017年に発売されたコマツ社製油圧ショベル「PC200i-11」の運転席にタブレット端末を設置して、現場の画像に完成図面を重ねて表示するものです。

従来の現場では、熟練作業者の経験や勘に頼って作業が進んでいた点の改善を目指しています。

端末のカメラで撮影した映像と連携するサービスで、主に下記3機能が備わっています。

①ステレオカメラで撮影した映像に、地形や設計図がARでリアルタイムに合成され、設計通りに施工が進んでいるかをタブレットで感覚的に確認できる

②2DミニマップとHUDによって、建機の現在位置や姿勢などを施工図面と照らし合わせて確認できる

③スマートコンストラクションクラウド経由で最新のデータ(3D設計図など)にアクセスできる

「Kom Eye AR」紹介動画

引用元:カヤックとコマツ、スマートコンストラクション事業で協業!新サービス「Kom Eye AR」をリリース!(2018.07.18)面白法人カヤックプレスリリースhttps://www.kayac.com/news/2018/07/komatsu

コマツと面白法人カヤック、スマートコンストラクション事業で協業 新サービス「Kom Eye AR」をリリース(2018.07.18)小松製作所プレスリリースhttps://home.komatsu/jp/press/2018/others/1199804_1599.html

PC200iの運転席上部にはステレオカメラが設置されており、写った映像はGPSで送信可能なので、熟練した作業者の引退、現場の人手不足などに悩む建設現場への1つのソリューションとなりそうです。

日本語に不慣れな外国人労働者も、こうしたビジュアル的な補助があれば、作業の助けになるでしょう。

こうしたIoT技術を駆使した建設方法は「i-Construction」と呼ばれ、国土交通省も後押ししています。

i-Constructionには国家が支援 – Kom Eye ARへの期待

建設業界では、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックや、2027 年開業予定のリニアモ ーターカーなどによる需要の高まりと、高齢化に伴う労働力人口の減少から、技能労働者不足 が年々深刻化しています。

2025 年には 現在と比べて技能労働者が44万人減少するともいわれ、スタッフの 確保・育成に加えて、生産性の向上が最優先の課題になっているのです。

そして、今回紹介している【コマツ×カヤック】は規模は違えど革新的な2社による「i-Construction」コラボレーションと言えます。

コマツこと株式会社小松製作所は、以前から連携しており、カヤックはGoogleのARプラットフォーム「Tango」を使って、コマツ向けのスマートコンストラクション開発を進めてきました。

コマツは、「KOMTRAX(コムトラックス)」でいち早くGPS(全地球測位システム)を使った遠隔の車両管理を実現し、盗難防止にもなることで、途上国でも大きな売り上げを上げた建築業界におけるイノベーション企業です。

一方、株式会社カヤック(http://www.kayac.com/)は神奈川県・鎌倉に拠点を置く、コンテンツ製作などを行うベンチャー企業。

「面白法人」を自ら名乗り、基本給にプラスされるインセンティブ額がサイコロをふってでた目に左右される「サイコロ給」、社員全員が人事活動にかかわる「全員人事」など、ユニークな人事制度で知られています。

斬新な発想や高い技術でイノベーションを起こしてきた2社の【AR×建築】のコラボレーションは今後も非常に期待ですね。

AR 建築で既に実用化されているアプリ紹介3選

私たち一般の物件購入者にとって便利なアプリケーションが、オンラインでダウンロード可能になっています。

建築物合成や景観のシミュレーションが可能な3DCGアプリなど、非常に便利なものが増えてきています。

Perkins+Will AX「AX」

建築事務所Perkins+Willは、アプリケーション「AX」を2017年秋にリリースしました。

この建築事務所が過去に設計した建物のなかから興味のあるものを選択すると、建物の映像がスマートフォンを通してみる景色に合成され、構造を詳しく知ることができます。

上海国立歴史ミュージアムなど、有名な建物について目の前で細部を見ることができます。

引用元:Perkins+Will Launches Augmented Reality App “AX”10.16.2017

Appstoreのこちらのページから、無料でダウンロードできます。

Solidhaus社のアプリケーションで完成後の様子をシミュレーション

出典:Solidhaus社公式Twitter

アップルの「ARKit」を利用したアプリケーションで、利用者が3D図面をアップロードすれば、周囲の景観に建物の寸法やデザインがどうマッチするかを確認することができます。

サイト上でベータ版が公開されています。

iOS11以降のiPhoneユーザーであれば、Solidhausのこちらのページからユーザ登録すると利用できます。

QHOME

国内企業発のアプリケーションとしては、Qoncept社が2017年秋から無料提供しているQHOMEがあります。

ARKitを利用したiOSアプリケーションです。

Qoncept(コンセプト)は大阪大学発の研究開発型ベンチャー企業で、ARを中心とした各種画像処理技術の実用化を目指しています。

このアプリケーションは、ARとVR、双方の機能を持っています。

実寸大の住宅の3Dモデルの中を歩くことができ、建設予定地では、ARを用いて窓を通した眺めをシミュレーションすることもできます。

Apple Store からQHOMEをダウンロードするならこちらから

ハードウェアは何が最適?

ヘルメット型ハードウェア登場の背景

ARアプリケーションは、基本的にはスマートフォンやタブレットにダウンロードして使います。かさばる図面の束を持ち歩かず、大量のデータをコンパクトに持ち運ぶことができるため、作業者の利便性が高まります。

ただし、施工・保守段階において、建設現場でスマートフォンやタブレット端末に没頭しながら歩くのは、本人にも周囲にもきわめて危険です。転落など重大な事故につながる可能性も考えられます。

そのため、いわゆるハンズフリーのウェアラブルとして、ヘルメット型が登場しました。

そうはいっても、視界がディスプレイでおおわれることで現実の危険から注意がそがれ、リスクがあることは否定できません。また、一日中ずっとつけていれば、作業者の耳、首・肩の負担になる重さです。

より小型化されたスマートグラスが日本企業でもすでに採用されています。

小柳建設(新潟県)の事例

Windows 10 を搭載したMicrosoft社のARプラットフォーム「Hololens」を活用した製品です。建設計画・工事・検査の効率化、アフターメンテナンスのトレーサビリティを可視化するサービスを提供しています。

ただし、バッテリーのもちや反応速度にはまだ課題があるようです。今後、いっそう現場に適合した製品・サービスが登場するでしょう。

XR-Hubでは建築現場のAR導入の無料コンサルティングを行なっています。お気軽にご相談ください。

まとめ

以上のように、建築分野では着々とARの開発・実用化が進んでいます。

建築会社や建築事務所などのサプライヤー側にとっても、物件購入者側にとっても、メリットの多い新サービスの登場が今後も期待できますね。

今回はAR建築について解説しましたが、VR建築についても知りたいという方はこちらの記事もオススメですよ!)VR建築の活用メリットやデメリット、応用事例を徹底解説


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