遠隔・作業支援ARの導入事例|現場の生産性向上を実現するソリューション
日本の製造・運送業界が抱える多くの問題を解決するテクノロジーとして今、大きな期待が寄せられているのがARです。
今回の記事では
- ARとは?技術の概要や特徴
- 製造・運送業界におけるARソリューション事例
- 遠隔・作業支援に使用されているARデバイスやアプリとは
- 現場に実際にARを導入するには?導入イメージ・費用感など
といった点を取り上げます。
ARテクノロジーの導入を検討している企業、現場で働く人たちには必見の内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
Contents
ARとは?製造・物流業界での活用が期待される理由
製造・物流業界での期待が高いAR。
まずはARというテクノロジーと、VRとの違いについてしっかりと押さえておきましょう。
ARの概要・VRとの違い
ARは「Augmented Reality」の略で、「拡張現実」と訳されます。
スマホやタブレット、ARグラスを通じて、現実空間にCGの画像や映像、音声などを投影する技術。
実際の風景に重ね合わせてそれらが映し出されるため、あたかも実際にはない画像が現実世界に『拡張して表示』されたかのような視覚表現が得られます。
一方のVR(Virtual Reality)は日本語で「仮想現実」といい、専用のヘッドセットを装着することによってユーザーが仮想空間に『入り込む』ことができます。
まとめると、
- AR=現実社会に情報を拡張表示させる。
- VR=架空の世界に入り込む。
製造や物流業界において、ARは現場の生産性向上に、VRは訓練・教育文脈で使用されるケースが多いです。
1.AR/VRはDXを推進し、生産性を向上する
現在、世界の製造や物流現場における潮流は、これまで人に頼っていた技術や経験をデジタル化し、皆に共有する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への転換です。
- 作業マニュアルのデジタルAR化
- 遠隔コミュニケーションの実現
- 教育コンテンツのAR・VR化
- リアルタイム作業ガイドのAR表示
など、現場での労働生産性や教育コストを改善するためのツールとしてARは最適であり、AR/VR化を実現するためのシステム開発を進めていくことで、製造・物流業界はDXを更に推進することが可能なのです。
ARを活用したDXの推進によって、現場での作業の効率化と生産性の向上がもたらされます。
2.熟練作業員の暗黙知を形式知化できる
特に今、日本の製造現場において深刻な問題となっているのが、人手不足と後継者不足。
作業員の高齢化が進み、若手従業員の数も減ってきている中で、知識や経験をいかに次の世代へ引き継ぐのかにどの現場でも頭を悩ませています。
ARテクノロジーは、そうした問題の解決にも役立ちます。
例えば、熟練作業員の作業内容をマニュアル化として保存する際、
- 熟練作業員の手順内容を撮影(2D or 3D)
- 手の動きの速さや可動域などを数値化できる形で保存
- 1~2で撮影した内容を、マニュアルとしてARで共有・3D画像として表示
というプロセスを行うことで、 「暗黙知化されている技術を保存し、伝承すること」が可能になります 。
人手不足が深刻な日本の製造業界において、熟練工の技術や経験を継承させ、高い製品品質を維持するのに、ARはこれから不可欠なテクノロジーとなるでしょう。
製造・物流現場における作業支援・遠隔ARソリューション3パターン
ARがこれからの製造・物流業界に必要不可欠なテクノロジーであることが理解できたところで、実際の現場でのDX推進パターンを解説していきます。
1.作業マニュアルや作業ガイドを、リアルタイムでグラスやタブレットにARで投影する
ARグラスを装着して作業にあたると、現場での作業中に、リアルタイムで目の前にマニュアルや作業ガイドがAR表示されます。
グラス上に表示されたCGの作業ガイドを見ながら作業するケースと、紙の作業指示書を手で見ながら作業するケースで、大幅に作業効率が変わることは明白です。
作業員の即戦力化も可能
このようにARグラスやタブレットに必要な作業手順がAR表示されることによって、練習回数が少ない作業員も即戦力として現場で稼働することが可能になります。
エアコンの室外機のような、メーカーによって作業手順が異なる製品を扱う際には非常に効果的でしょう。
作業項目の多い工場での機器の取り扱いやメンテナンス業務において、マニュアルや作業内容がリアルタイムで目の前に表示できるARテクノロジーは生産性向上に大いに役立ちます。
2.音声や映像で、遠隔作業支援をARで行う
2つ目のソリューションは、遠隔からの作業支援ソリューションになります。
現場の作業員に対して、遠隔地にいる管理者やマネージャーが指示を出す、というものです。
多くの場合ARグラスにはカメラが搭載されており、
- 現場作業員の手元をカメラを通じて、遠隔地の社員のPCに投影
- それを見ながら、作業指示やアドバイスを送る
という形で導入されます。
ARで、コロナ下でも円滑な遠隔コミュニケーションを実現
世界中に工場を持つネスレは、実際にARを活用して各地の拠点のリモート・サポートを行っています。
特にコロナによって移動に制限がかかる中、ARによって遠隔地の支援をリアルテイムで行えることのメリットは計り知れません。
熟練作業員やサポートスタッフが現場の作業員に指示を出すことによって生産効率が向上するのはもちろん、支援グループを集約することによる教育コストの削減、品質保持も期待できます。
コロナによってリモートワークが一般的になってきましたが、ARを活用したリモート・サポートの必要性もこれからますます高まっていくでしょう。
3.危険区域でのアラート表示による事故の削減
事故・災害の多い製造現場において、「 従業員が事故が発生するような危険区域に入った際に、ARグラスで危険通知を自動的に行うソリューション」です。
危険区域であることをARグラス上に投影することで従業員は必然的に情報を視認し、事故を未然に防ぐことが可能になります。
また、現場で起こりうる事故や災害をARで表示することで、作業員の安全への意識を高めることも可能。
上の動画は、大雨による水害をARによって可視化している様子です。
ハザードマップによって、特定の場所の水害の被害予想を知ることはできますが、このようにARによって災害が『視える化』されると、防災意識はさらに強まるでしょう。
安全確保という最も重要な課題に対しても、ARは最適なソリューションを提供してくれるのです。
※遠隔支援ARソリューション開発・AR作業ガイドの開発・導入相談はこちら
作業支援・遠隔指示で使用されるARデバイス
製造や物流の現場でARを活用するには、最適なデバイスとアプリケーションが必要です。
そこで、実際の現場で使用されているARデバイスと、その活用事例も見てみましょう。
1.HoloLens2
「HoloLens2」は、Microsoft社が開発・販売するAR / MRデバイス。
本体にCPUやGPU、各種プロセッサやセンサーを内蔵したスタンド・アローン型のデバイスで、AR技術をさらに発展させたMR(Mixed Reality/複合現実)テクノロジーを実現させています。
HoloLens2を製造や物流の現場に活用すると、複雑な作業内容もスムーズにこなすことができます。
例えば、トヨタ自動車では自動車整備の点検や修理にHoloLens2を活用しています。
HoloLens2の導入を通じて、従来は作業手順書や修理書が不要になっただけではなく、エンジン内部の部品や整備箇所が3DCGによって表示されるため、作業効率が大幅に工場します。
生産性向上や技術スキルの標準化、熟練度の向上といった成果を上げています。
現場における生産性の向上だけではなく、ARはトレーニングにも活用できるため、トヨタ自動車は全国の販売店にHoloLens2の導入を進めるとしています。
※参考記事)【HoloLens2完全解説】先代モデル、Magic Leap Oneとの比較から進化を大解剖
HoloLens2の価格・購入方法
- 価格:422,180円(税込)
- 公式HP
※HoloLens2は単体での販売のほか、モートアシスタントツールがセットがなった月額パッケージの「HoloLens 2 with Remote Assist」、開発者向けの「HoloLens 2 Development Edition」の3種類で展開されています。
2.Vuzix Blade
「Vuzix Blade」は「Vuzix」が開発・販売するARデバイス。
HoloLens2とは異なり、本体にカメラやセンサーを搭載しておらず、「グラスにCGの情報を投影する」ということに機能を絞った「スマートグラス」と呼ばれる製品に分類されます。
ただしその分、Vuzix Bladeはデバイスの小型化、低価格化を実現しています。
HoloLens2のような高機能を持ち合わせてはいないといえ、Vuzix Bladeは製造・物流の現場の作業効率を劇的に向上させるポテンシャルを秘めています。
上の動画は倉庫内でのピッキング業務にVuzix Bladeを活用しているシーンですが、デバイスのレンズに通路番号や棚番号、これからピッキンする物品のリストや場所までも表示され、作業工程をリアルタイムに確認しながら作業を行えます。
ARレンズやスマートグラスは頭部に装着して両手がフリーになるため、フォークリフトの操縦など、通常の作業を邪魔しないことも大きなポイント。通常業務の支援ならば、Vuzix Bladeの機能で十分、という現場も多いのではないでしょうか。
※参考記事)スマートグラス「Vuzix Blade」徹底解説 – 2019はAR元年になるか?
Vuzix Bladeの価格・購入方法
- 価格:999.99ドル(約10万8000円)
- 公式HP(英語)
3.Google Glass
Googleが2012年に発表し、世界中を騒がせた「Google Glass」。
最終的に一般発売は中止となりましたが、2017年に満を持して法人向けの新型のGoogle Glass、「Glass Enterprise Edition」の発売を開始しました。
法人向けとしてリリースされている新型のGoogle Glaasは既に航空製造業、運送業、重器具製造メーカーなどに導入され、大きな成果を上げています。
※参考記事)Google Glassはオワコンじゃない?「第二世代」現在の姿と今後の展望
一方で、ARテクノロジーを利用した遠隔・支援システムの恩恵を特に受けているのが医療分野への活用です。
医者は診察後のカルテの記入や紹介状の作成に、多くの時間を費やしますが、医療現場にGoogle Glassを導入することによって、
- 医者が問診している間の自動的なカルテの作成
- リモートアシスト
などによって1日平均2時間の節約という導入効果をもたらしています。
臨床医はその分の時間を患者への治療や自分のための時間に費やすことができるというわけ。ARテクノロジーが医療分野での生産性向上に大きく寄与しているのです。
※参考記事)AR/MRが医療・手術を変える|応用事例や学習効果・導入メリットを解説
Glass Enterprise Edition 2の価格・購入方法
- 価格:999ドル(約11万円)
- 公式HP(英語)
※Glass Enterprise Edition 2は一般向けには販売されていません。法人向けにもGoogle Glass単独での販売はされておらず、各企業に合わせた専用のソリューション・サービスとセットでの提供になっています。
製造現場での作業ガイドAR導入事例:BAEシステムズ
イギリスの航空宇宙関連企業であるBAEシステムズ社は、製造現場での技術者のトレーニングにARを活用しています。
先ほど紹介した内容にもありましたが、 BAEシステムズ社では作業トレーニング・現場での作業ガイドにHoloLensを活用。
手元の機材や作業を見ながら、3DモデルのマニュアルをARで重ね合わて表示することによって、効率を高めています。
紙のマニュアルをめくりながら作業するのに比べると、自分の扱っている部品に直接3Dモデルが表示されるARトレーニングで従来の訓練コストを3割以上削減したとのことです。
物流現場現場での作業支援ARアプリ導入事例
国際運輸を手掛ける物流法手の「DHL」社は、主にピッキングの支援ツールとして上で紹介した「Google Glass」を活用。
従業員の作業ガイドを、紙の作業指示書からARグラスに移行しました。
Google Glassを装着した作業員がタスクをスキャンすると、ピッキングする製品、場所、量などがARで表示されます。
あとは指示に従って棚まで移動し、指定された製品を取り出すだけ。
ピッキング自体の作業時間が短縮されることはもちろん、ミスが激減し、全体的な生産性が大きく向上ました。
作業支援 / 遠隔支援ARアプリ・システムの導入イメージ・費用感
ここまで製造・物流現場へのDX推進ツールとしてのARソリューションを解説してきましたが、実際にプロジェクトを開始する場合、
- どのようなプロセス、スケジュールで行うのか
- どれぐらいの費用が必要になるのか
という点について解説していきます。
プロジェクト進行イメージ
プロジェクトの進行例としては、大きく
- 現在の業務理解
- 開発要件の定義
- (必要に応じてプロトタイプを作成)
- PoCの実施
- 本開発・導入への移行
というプロセスに分解できます。
それぞれのタスクや開発スケジュールは図の通りですが、ARによる作業効率の改善や教育コストのカットは効果の不確実性が大きい(事前に「実際どれぐらい改善されるのか」が分かりづらい)ことから
- まずは低コスト(100~200万程度)でプロトタイプを開発し、実際の現場でPoCを行う
↓ - 数値での効果計測に加え、改善点をPoCで洗い出した上で、費用対効果が見込めるようであれば予算を追加し本導入を行う
という流れが望ましいでしょう。
作業マニュアルの表示(システム開発を伴わないケース)
アプリケーション内に作業ガイドなどをハードコーディングし、サーバーやシステムを開発しないケースであれば、もちろん開発物の多さやコンテンツのリッチさにも依存するものの、
- PoC:100~200万程度
- 本導入:300~500万程度
でソフトウェア開発が可能です。
懸念点としては、アプリケーション内で全て作業マニュアルの表示などを内包しているため、
- 容量が重く、挙動が遅い
- デバイス内にインポートできるマニュアル数に限界値がある
という点が挙げられます。
遠隔作業システムの構築
遠隔での作業支援・コミュニケーション基盤を開発する際、通信インフラを含めたサーバーサイドの開発が必須になるため、最低でも「+1000万程度」の費用が必要になってきます。
よって、リスクを最小限に抑えるベストなプロジェクトの進め方としては
- 150万程度プロトタイプでPoCを実施し、実施したいARの作業改善ボリュームを定量化
- 500万程度で、ARグラスアプリケーション(もしくは、加えて最低限のPCアプリケーション)を開発
- 1000万以上の予算で、システム開発まで含めて本格的な導入
の3ステップが想定されます。
※既に実現したい内容や導入後の費用対効果が明確である場合、2、もしくは3からの導入となります。
AR作業マニュアル・遠隔支援ARソリューション開発会社
本メディア「XR-Hub」を運営している株式会社x gardenは製造・物流業界向けAR/VRコンサルティング・開発事業「XR-Hub DX」を展開しています。
- 労働生産性が頭打ちになっている
- コロナ下で、遠隔教育や遠隔作業指示を実現したい
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まとめ
ARは情報を製造業における労働力を最適化するためのソリューションとして、徐々に導入が進みつつあります。
海外では一般化されてきていますが、今後日本でも導入が一層加速していくでしょう。
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