バーチャルヒューマン・バーチャルインフルエンサーとは?企業の活用事例と仕組み・作り方


昨年の紅白歌合戦に出場した「AI美空ひばり」は、日本のお茶の間にバーチャルヒューマン(デジタルヒューマン)の存在を知らしめる画期的な出来事でした。

これから到来するAI時代を見据えて、バーチャルヒューマン技術はより一層注目を浴びるに違いありません。

しかし、今の日本においてバーチャルヒューマンを正確に定義し、理解できている人はそれほど多くはないのではないでしょうか?

そこで今回は、バーチャルヒューマンについて、

  • バーチャルヒューマンとは?
  • バーチャルヒューマンの制作方法
  • バーチャルヒューマンが必要とされる理由
  • 海外や日本におけるバーチャルヒューマンの活用事例
  • バーチャルヒューマンがもたらす社会の変化と可能性

といった点に関して徹底的に解説していきます。

近未来には当たり前のテクノロジーとなるであろう、バーチャルヒューマン技術やその仕組について今からしっかり理解しておきましょう。

GUも起用?1分で分かる、バーチャルヒューマンの概要

2019年の紅白歌合戦に『出場』したAI美空ひばりはそのリアルさと故人を用いたことから、権利や倫理面も含め、賛否入り交じる論争へと発展しています。

AI美空ひばりの是非は別の論点として、バーチャルアイドルやVTuberなど、架空のキャラクターをアーティスト化する試みはこれまで何度も行われてきました。

バーチャルアイドルとして一番成功したのは、なんと言っても初音ミクでしょう。

初音ミクはバーチャルアイドル歌手をプロデュースするというコンセプトのもと2007年からプロジェクトがスタートし、現在では世界的な人気を博すようになっています。

また、キズナアイに代表されるVTuber(バーチャル・ユーチューバー)の存在も、当たり前になってきています。

これまでのバーチャルアイドルはあくまで2次元の世界の存在であり、絵柄もアニメ調やCGを強く意識させるものでした。

しかし、AI美空ひばりに代表されるように、バーチャルヒューマンは限りなく人間に近づけることを目標としています。

バーチャルヒューマンとは

バーチャルヒューマンとは、CGで作成された人物のこと。バーチャル俳優、デジタルクローンとも言われています。

バーチャルヒューマンには、

  1. 実在の人物をバーチャル化する
  2. ゼロからキャラクターを創出する

という2つの方向性が存在します。

これまでは、2の「実際には存在しない人物を3DCGキャラクターとして創り出す」というのが一般的でしたが、昨年の紅白にも出場したAI美空ひばりは、言うまでもなく実在の人物をバーチャルヒューマン化したものです。

俳優・アーティストをバーチャル化させるプロジェクト「1Sec」

AI美空ひばりより以前から、著名人をバーチャルヒューマン化するというプロジェクト「1sec (ワンセック) 」が立ち上がっていました。このプロジェクトにより、俳優の水嶋ヒロのバーチャルヒューマン「Lewis Hiro Newman(ルイス ヒロ ニューマン)」が誕生したのです。

(こちらは前段落の「1」に該当します。)

自らをバーチャルヒューマン化することについて、水嶋ヒロは自身のInstagramで

なぜ分身を生むに至ったかというと…少し説明するのが難しいんだけど、昔選択したことが違ってたら、いまどんな人生になってただろうか‥?なんて想像したことない?笑

と述べています。

実は、実在の人物をバーチャルヒューマン化するのは、世界を見渡してもこのLewis Hiro Newmanが初めての試み。今後さらに国内外の著名人をバーチャルヒューマン化するプロジェクトが進行中とのこと。

AI美空ひばりによって日本では一気に認識が広まったバーチャルヒューマンですが、実在の人物をバーチャルヒューマン化するというのはまだまだマイナーな存在なのです。

実在する人間をバーチャル化する方法

実際に存在する人間をバーチャル化(アバターとして保存)する方法としては、

  1. 360度写真・映像を撮影し、立体的な情報を保存(3Dスキャン)
  2. スキャンしたデータをBlenderMayaといった3Dソフトで処理

という流れになります。

1.に関しては、

があります。

※参考:3Dリアルアバター作成方法|全身をスキャン・モーションキャプチャする各技術と費用感

アバターの活用目的や用途で利用すべき技術は異なりますので、3Dアバターやバーチャルヒューマンの活用を検討しているものの、分からないことが多いと言う方はこちらにご相談ください。

GUが、実在しないバーチャルヒューマン「Yu」をモデルに起用

2020年3月に出たタイムリーな内容として、大手アパレルブランド「GU」がバーチャルヒューマン「Yu」をモデルに起用し話題を呼びました。

Yuは女子大生で、身長158cm。

これはGUがランダムに抽出した200名の女性の平均データから生まれた数値で、”あなたから生まれたキャラクター”という意味を込めて「You」に由来する「Yu」という名前になっています。

自社のペルソナをバーチャルヒューマンとして生成し、客層に自己投影してもらうことで購買意欲を喚起する、という最先端の技術を活用したマーケティング手法を取った例と言えそうです。

バーチャルヒューマンとデジタルヒューマンそれぞれの変遷と技術

そもそも、バーチャルヒューマンとはどのような技術で、現在にかけてどのような変遷があったのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

1990年代、「人間を数理モデルで再現する技術」として”デジタルヒューマン”の研究が始まる

バーチャルヒューマンの現状について調べる前に、バーチャルヒューマンが誕生するに至った経緯・歴史的背景を振り返ってみましょう。

バーチャルヒューマンのコアとなる技術、「デジタルヒューマン技術」は1990年代から研究されてきました。

これは、人間の構造や機能、行動メカニズムをコンピュータ上で再現することによって、製品や様々なモデルと人間との相互作用をシミュレーションすることを目的としたものです。

当時は「コンピューターマネキン」とも呼ばれており、CADで設計された製品モデル上に、人間のモデル(マネキン)をインポートし、空間認識や到達域などをチェックしていました。

建築や医療・機械工学領域などにおけるシミュレーションの実施・精度向上が研究のベース

人間の外見だけではなく臓器や細胞、骨格を数理モデル化し様々なシミュレーションを行うことにを可能にする「デジタルヒューマン技術」。

薬剤や医療機器の作用を観察などの医療領域や、自動車衝突シミュレーションなどを含めた幅広い領域で活用されてきました。

人間の身体の動きを機械工学で分析するというバーチャルヒューマン技術は、その後バイオメカニクス、ヒューマンダイナミクスの分野へと発展を遂げ、現在でも世界各国で研究が続けられています。

参考論文

この様に、バーチャルヒューマンの基ともなったデジタルヒューマン技術は、主に工業・産業界で用いられてきた技術なのです。

2010年代後半「Lil Miquela」を始めとしたバーチャル・インフルエンサーが出現

2018年から2019年にかけて、バーチャルアイドルとしてのバーチャルヒューマンが世間に受け入れられ、大きな注目を集めるようになってきました。

仮想のキャラクターとして生み出されたバーチャルヒューマンが、多くの人に影響をおよぼす発信力のある人物、つまりインフルエンサーとしての立場を得るようになったのです。

バーチャル・インフルエンサーの出現です。

世界的に最も知られたバーチャルヒューマンと言えば、「Lil Miquela(リル・ミケーラ)」が挙げられます。

Lil MiquelaはInstagramで190万人ものフォロワーを持つバーチャルヒューマンで、プラダやモンクレールなどの高級ファッションブランドとのコラボや、ミュージシャンとしての活動も行っています。

3DCGキャラクターが歌手やモデルとして活動すると聞くと、1995年に公開されたアニメ映画「マクロスプラス」のシャロン・アップルを思い出す方もおられるかもしれません。

シャロンは映画の中で銀河一の人気を誇るバーチャル歌姫として描かれてきましたが、まさかそのコンセプトが現実のものになるとは…。

何より、Lil Miquelaは単なるアイドル的な存在ではなく、人種や人権問題などの社会運動に参加したり、実在の音楽アーティストへのインタビューを行ったりと、まさにバーチャルを飛び出した活動を行っています。

Bermuda、Liam Nikuro、Blawkoなど多数のバーチャルインフルエンサーが台頭

Bermuda(バミューダ)」はLil Miquelaと同じスタジオが手掛けるバーチャルヒューマンで、主にバーチャルモデルとして活動・発信を行っています。

(BermudaのInstagramより)

いかにもモデル然としたBermudaの海外での人気は凄まじく、Instagramのフォロワー数は20万人以上。

時にはゴシップ記事を提供することによって、世間を騒がせる存在となっています。

バーチャル・インフルエンサーとして活躍するバーチャルヒューマンは他にも男性の「Liam Nikuro(リアム・ニクロ)」や「Blawko」など多数。

彼らはいずれも実在するファッションブランドのモデルとなったり、InstagramやYou Tubeなどで活動を行っています。

Instagramには本物の人間との2ショット写真も多く投稿され、時には恋愛や自身の考えをコメントすることも。バーチャルヒューマンがバーチャルとリアルの垣根を超えた存在になりつつあると言っても過言ではないでしょう。

Lil MiquelaやBermudaを手掛けるBrund社は、バーチャルヒューマンによって合計1億2,500万ドル(約136億7,000万円)もの資金を集めており、バーチャルヒューマンに対する市場の期待や今後のニーズが顕著に現れています。

CES2020では、バーチャル・ヒューマンに関するプロジェクト「Neon」を発表

世界最大の電子機器の見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。

1月に開催されたばかりのCES2020で、サムソンの研究開発部門を母体とする企業・Neonが、「本物の人間のような外観と動作で感情や知性を表現できる」、バーチャルヒューマンの技術を発表しました。

Neonの開発するバーチャルヒューマンは本物の人間のように振る舞うビデオチャットボット機能をベースとしているものの、単に聞かれたことに答えるAIアシスタントとは異なるそう。

むしろNeonのバーチャルヒューマンは、自ら目標を設定し、知識を取り入れ、学ぶといった努力を行うことによって人間をサポートする存在となることが期待されています。

彼らはニュースキャスターやカメラマン、キャビンアテンダントにコンシェルジュなど、必要な状況で適切に振る舞うことによって私たちをサポートしてくれます。

さらに、それぞれのバーチャルヒューマンは独自の存在でありいずれも実在する人間のコピーとは異なります。

Neonのバーチャルヒューマンはまだ開発中のものではありますが、AIが人間の姿になって我々をサポートしてくれる、まるでSF映画のような世界を思い描けるのではないでしょうか。

バーチャルヒューマンが私たちにとって身近な存在となる日も、意外と遠くないのかもしれません。では、ここからは日本でのバーチャルヒューマンの活躍についても調べてみましょう。

インスタで話題のバーチャルモデル「imma」とは

ネット上で「CGに見えない」と話題になったのが、バーチャル・モデルの「imma」です。

バーチャルヒューマンのimmaは、日本初のバーチャル・モデルとして誕生し、Instagramのフォロワー数は17万人に迫ります。
immaのinstagram公式アカウント

WWD Japanでは表紙を飾り、コスメブランドKATEとのタイアップ企画ではKATEを使ったメイクをするなど、オンラインに囚われずは幅広い領域で活躍しています。

バーチャルモデル・immaの仕組み

ピンク色の髪の毛が特徴的なimmaは、まるで本物の人間のように非常にリアル。ファッションやメイクなども非常に現代的で、全く違和感がありません。まるで本物の人間と見間違うかのようなimmaは、その制作過程に秘密が隠されています。

 

immaは頭部を3DCGで制作し、実写で撮影した体と背景に合成しています。

頭部のモデリングはZBrushを使用しているそうで、顔のパーツのバランスには相当こだわったとのこと。

頭部に使用されているポリゴン数は15,000程度で、低コストながら高度な技術によってこの完成度の高さが保たれています。

しかし、immaの開発の革新的な部分は、そういったインターフェースだけでなく、AIによって動作している点にあるでしょう、

バーチャルヒューマン・immaの制作には「中の人がいない」ことを大前提とし、話す内容はAIが判断し、動きもAIの制御に任せています。

その点、同じAIと言ってもプログラミングによって制御された紅白出場時のAI美空ひばりや、曲を作る人間の存在が大きい初音ミク、声を吹き込む人間が背後に存在するVTuberのように、「中の人がいる」キャラクターとは全く別物であることが分かります。

もちろん、どちらが優れているという話ではありませんが、AIが話す内容や動きを制御し、「中の人がいない」バーチャルヒューマンの開発は、これからますます注目されていくことでしょう。

immaの製作会社は株式会社Modeling Cafe

バーチャル・モデルimmaを開発するのは、モデリングに特化したCG制作を行う、株式会社ModelingCafe

キャラクターモデラーの川島かな恵氏、モデリングSV担当の松本龍一氏、ディレクター・岸本浩一氏らのチームが制作に携わります。

そもそもimmaの開発は、プロデューサーの企画から始まり、Instagramに投稿する女性のイメージやトレンドを分析しながら行ってきたそうです。

あくまで、Instagramに投稿するような等身大の女の子をイメージし、将来的にはAIによってリアルタイムで動くバーチャルヒューマンの制作を目指しているとのこと。

ディレクターの岸本氏は、「今後VRの性能が向上し、解像度も挙がっていくとバーチャルの世界もきっと様変わりしてくる。その時に人間と区別がつかないようなキャラクターを創出し、デジタルタレントとして活躍できるバーチャルヒューマンを開発していきたい」と述べています。

AIによって自ら考え、行動するバーチャルヒューマンならば、言語や国の違いも乗り越える世界的アイドルの誕生も決して夢ではありません。

日本発のバーチャルアイドルの活躍も、引き続き注目していきましょう。

3DCG女子高生Sayaとは

続いて紹介する「Saya」は、透明感のある肌や真摯な眼差しなど、本物の女子高生と見紛うバーチャルヒューマン。

Sayaが2015年にTwitter上で発表されたときには、「不気味の谷を超えた」と話題になりました。

Sayaの仕組み

CGやロボットが限りなく人間に近づいていくとき、ある段階で不快感を感じてしまうという不気味の谷。その障壁を克服することは、バーチャルヒューマン制作においても非常に重要な要素となっています。

メリハリがあまりなく、肌の透明感が高い日本人の女子高生を違和感なくCGで表現するのはとても難しいのですが、Sayaの完成度はその点で飛び抜けています。

Sayaは上の動画で出場した、講談社が主催する女性アイドルオーディション「ミスiD 2018」で見事ファイナリストに選出、「ぼっちが、世界を変える。」賞を受賞しました。

実在の女の子を対象としたオーディションで、バーチャルヒューマンが最終選考にまで残ったのはまさに異例の出来事と言えるでしょう。

現在Sayaは、TV番組や雑誌、広告やイベントなどで幅広く活躍しています。

Sayaの製作者は制作ユニット「TELYUKA」

女子高生バーチャルヒューマンのSayaを生み出したのは、夫婦による制作ユニット・CGアーティストとして活躍する「TELYUKA(テルユカ)」。

2015年にTwitterで自主制作作品を紹介する中でSayaを発表。その反響の大きさから本格的な開発が始動しました。

2016年以降は「ヴァーチャルヒューマン・プロジェクト」として映像制作会社のロゴスコープと合同で制作。同年10月からはモーションキャプチャーやフェイシャルキャプチャーを東映ツークン研究所が担当するようになりました。

第21回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門・審査委員会推薦作品、デジタルサイネージアワード2019 IOT AI部門賞を受賞するなど、業界内外からの注目や評価が非常に高くなっています。

緻密なコンセプト設計と作り込まれたモデリングの美しさ

Sayaの透明感のある肌感や思わず見入ってしまう表情は徹底的な作り込みによる賜物で、手書きで色合いを重ねモデリングを再構築し、衣装も型紙から切り出して制作を行っています。

Sayaの生みの親であるTELYUKAの石川晃之・友香夫妻は、Sayaのデザインコンセプトとして「透明感、清潔さ、清純さがある、クラスの中の優等生」を挙げています。

宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」のナウシカのような、絶対に裏切らない純粋さと、平均的な美しさに強い影響を受けたとのこと。

immaと同様、Sayaにも「中の人」はいません。

そのため、人間にできることをわざわざSayaにさせることはせず、CGキャラクターとしてのSayaの存在を非常に大切にしているという両氏。アーティストによって生み出されたSayaは、女子高生として非常に高い再現度を誇るとともに、女子高生バーチャルヒューマンとしてSayaにしかできない活動を模索しています。

バーチャルでもコンプレックスを抱える|バーチャルヒューマン・MEMEとは

2019年4月に誕生したばかりのバーチャルヒューマン・MEMEは、単純にきれいなお人形のようなキャラではなく、リアルな感情や思想を持つ「不完全な女の子」というコンセプトで企画・開発されました。

人生・ストーリーを丁寧に描く、バーチャルヒューマンの新しい姿

バーチャルヒューマンとしては珍しく、顔にあえてそばかすや額と顎に目立つアザをもつMEMEは、自分自身にコンプレックスを持ちながらも、自分の好きなことをまっすぐに捉える女の子。

自分のことをパンクと称するMEMEは、アート・デザイン・写真などに強い関心を持ち、それを仕事にしたいと願っています。

そうした「等身大」の自分をさらすMEMEに、現代の若者たちは惹かれるものがあるのでしょう。MEMEはInstagramの自身のアカウントで普通の女の子が感じるような葛藤や、恋愛模様をつづっています。

 

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最近、ちょっとメンタルが落ちてて更新できなかった🧠☠️ 鬱っぽくなっちゃって大変だったな。。😰 マジでクソみたいな事が出来事がいくつかあったし、ニュースになってることもクソみたいだし、社会や人生に絶望しそうだった🤬👎 皆は本当に無関心なのかな?わたしが感じすぎるだけなのかな? 泣いたり怒ったりしても仕方ないけど、、まぁライフはハードだな🥺 まずは散らかった部屋から片付けよう💩 ・ #meme #virtualreality #virtualhuman #virtualmodel #virtualinfluencer #influencer #fashion #fashionmodel #asiangirls #tokyo #creative #creativemakeup #cgi #art #3dart #digitalart

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不完全だからこそ、多様性やタブーへのメッセージが人々の共感を生む

MEME誕生のきっかけとなったのは、上でも紹介したLil Miquelaだといいます。

 リアル社会のなかでタブー視されているものや、ブラックユーモアを用いて多様性を表現するのには、本物の人間よりもバーチャルヒューマンが適しているのではないか、というひらめきから誕生しました。 

そう考えると、MEMEのあえて『完全さからは遠い』造形も納得がいきます。

見た目が完全に整った美しい人物から多様性やタブーを語られるよりも、「不完全な美しさ」を持つMEMEの主張の方が説得力を持ちますから。

MEMEがInstagramで発信している事柄は、自身の悩みや毎日の生活のちょっとした変化など。実在していない存在なのに、まるで本当に存在しているかのようなMEMEの活動が、彼女のメッセージとともにリアルとバーチャルの境界をゆるやかにしていきます。

感情の多様性を組み込むことでリアリティを演出しているMEMEの存在は、リアルの人間がなかなか言い出せないことを切り出したり、ほかとは一線を画したアイデンティティすら持ち合わせているように思えます。

そんなMEMEのリアル感を生み出しているのが、あえて崩したヘアスタイルや、顔のアザなど普通のCGキャラクターには取り入れない要素に強く関係しているのは間違いないでしょう。

きれいな顔立ちの3DCGキャラクターを制作するよりも、MEMEのようなバーチャルヒューマンをデザインするほうがはるかに大変なのです。

MEMEの仕組み・制作過程

ベースとなる顔のスキャンには、独自開発に寄るライティングリグを使用し、最大解像度8Kのテクスチャスキャンでリファインが施されました。

細かなメイクの表現なども、実際のモデル撮影時に行われるのと同様のPhotoshopで調整。メイク用のレイヤーは唇や眉毛などのパーツごとに複数のレイヤーを制作しています。

MEMEの特徴的なアザも、実際に顔に痣を持つ人の協力を得てスキャニングし、リアリティを高めることに成功したそう。

少し散らかっているように見えるMEMEのヘアスタイルは、髪の構造の解析から始まり、実際にスタイリストに髪の毛をセットしてもらったあとにリファレンス。Instagramに投稿する写真ごとに、ヘアスタイルのアレンジを施すという作り込みです。

MEMEの容姿のような「不完全な美しさ」は、細部に至るまでのリアリティを追求して初めて成立します。どこか一部分でも手を抜いてしまったら、それは単なる「不完全なもの」に成り下がってしまうことでしょう。

MEMEの製作会社

MEMEの制作にあたるのは、映像制作・デザイン、企業の広告宣伝などを行う株式会社アタリと、ZARBON AND DODORIA株式会社による共同開発。

バーチャル・インフルエンサーが出現しはじめた2018年に、あえて普通の女の子をCGで表現し、彼女の日常を描いたら面白いかも?というアイディアから開発がスタートしました。

MEMEのアートディレクションを担当する松下仁美氏は、MEMEを創り出す上でリアリティーをとにかく追求したとのこと。

完全な美しさを避けるため、あえて少し団子鼻にしたり、そばかすやアザを付け加えましたが、それも自然なディティールになるよう何度も調整し直したそうです。

 

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MEME(@meme.konichiwa)がシェアした投稿

現在のMEMEの主な活動であるInstagramへの投稿も、カフェでコーヒーを飲んだり、原っぱで寝っ転がったり、洋服の試着をするなどの彼女の日常の風景をつづっています。

今後はリアルな男性との恋愛もさせていきたいというMEME。

そのユニークで特徴的なキャラクターは、バーチャルヒューマンにも「多様性」をもたらす貴重な存在といえるでしょう。

事例から考える、バーチャルヒューマンがもたらす社会の変化

ここまで、バーチャルヒューマンとは何か、バーチャルヒューマンの海外や日本での活動内容を見てきましたが、バーチャルヒューマンは私たちの生活に一体どのような変化をもたらすのでしょうか。

現実の「人」をリプレイスしていくであろう領域に関する考察を通して、バーチャルヒューマンの可能性も探っていきましょう。

1.企業の受付がバーチャルヒューマンに

単なる文字や音声による案内だけでは味気がない一方で、企業の顔としての役割もある受付にハードのロボットを用いるのは、ビジュアル的な抵抗感もある…。

そう考える経営者にとって、バーチャルヒューマンの起用は一つの答えとなりえます。

まずはこちらの動画(先ほど紹介したSayaがNTTとコラボした「おしゃべり案内板」のデモ映像)をご覧ください。

この映像のポイントは、Saya自身が案内を行うのではなく、情報と人をつなげる橋渡しのような役割を担っていること。

音声会話型接客システム「AIさくらさん」のように、AIを使った受付業務システムはすでに存在します。

そうしたAIによる音声会話接客システムと、バーチャルヒューマンを組み合わせれば、バーチャルヒューマンに企業の受付を委ねることはそう難しいことではないでしょう。

2.企業の広告塔がバーチャルインフルエンサーになる

Lil Miquelaimmaのように、企業の宣伝・広告塔としてバーチャルヒューマンを用いることは、ごくごく自然な成り行きと言えるでしょう。

コカコーラやルイ・ヴィトンなども既にバーチャルインフルエンサーを広告として活用しています。

企業の広告にバーチャルヒューマンを用いることには「スキャンダルや炎上いった、実在のタレントで発生するブランド毀損リスクを回避できる」といった大きなメリットが存在します。

今後も人気のあるバーチャルインフルエンサーが数多く誕生し、企業は一層積極的に自社のイメージタレントとして活用していくでしょう。

※関連記事)2020年ARの広告・プロモーション活用事例|仕組みやメリットなど徹底解説

※バーチャルヒューマンを活用しても、広告の演出や内容次第では一定炎上リスクは存在します。

カルバン・クラインが制作したCMのなかに「大人気スーパーモデルのベラ・ハディットがバーチャル・インフルエンサーのLil Miquelaとキスをする」というものがあり、異性愛者であるベラ・ハディットをレズビアンとして描写している、と非難が殺到。カルバン・クラインは謝罪に追い込まれました。

3.教育分野への応用

AIによる学習とディープラニングは当然、教育分野への応用も期待されており、バーチャルヒューマンは「人とAIの間に立つインターフェース」としての役割が求められています。

鎌倉女学院高等学校は昨年11月にAIについて学ぶ授業を行いましたが、その際に用いられたのが先ほど説明した「Saya」です。

今回の試みは、「2年生の情報の授業においてSayaが一日転校生として参加し、生徒たちがSayaとの会話を通してAI技術の基本について学ぶ」というもので、教科書やコンピューターでAIを学ぶよりも、実際にAIによって制御されたSayaと触れ合うことでAIに対する理解を深めるという仮説のもとで実施されました。

授業では「友だちとは〇〇である」というテーマを元に、生徒たちがそれぞれ考える「〇〇」をSayaに語りかけ、Sayaがそれに対して解答したり追加の質問をしてさらに会話を重ね合わせていきました。

教育・教材をAI化する4つメリット

教育・訓練におけるAIの活用は

  • 属人化したノウハウを形式知化させることができる
  • データ取得がしやすいやめ、定量化し改善できる
  • 全員に対してAIが教えるため、教育が均質化される・バラツキが出ない
  • 教育コストがかからない(人件費が不要)

という4点が導入のメリットです。

「どこまでを人が教え、どこまでをロボットが教えるか」という線引きや、教育内容との相性、といった論点は存在するものの、人手不足やスキル継承が課題となる現在の日本の各種産業では特に、AIなどのテクノロジー導入は鍵になってくると言えるでしょう。

※関連記事)ARが教育を変える|活用事例・アプリから学習効果や導入メリットを分りやすく解説

4.介護領域での活用

日本における高齢化と介護分野における人手不足対策は、待ったなしの状態となっています。

こうした高齢化社会における介護現場への切り札と考えられているのが、外国人労働者の活用と最先端テクノロジーによる業務の効率化であり、この点で、バーチャルヒューマンの活用は確かに現場での大きな助けになるでしょう。

たとえば、バーチャルヒューマンが介護対象の高齢者の方々の雑談相手となり、その会話を通じて介護対象の体調調査・管理を行うことが可能。何より、一定のコミュニケーションをロボットが代替することで、従業員側の負担を軽減することが可能です。

また、介護現場では外国人労働者の人口が増加していますが、多言語を操るバーチャルヒューマンが会話の翻訳を代替することも可能です。

介護現場のような、人手不足が深刻な業界においては、AIやバーチャルヒューマンの活用がこれからどんどん進んでいくことでしょう。

※関連記事)VR研修/訓練の活用事例や導入メリット・デメリットを徹底解説!

まとめ・AR/VRの企画開発はこちら

ここまでバーチャルヒューマンに関する事例や応用例などを紹介してきましたが、本メディア「XR-Hub」を運営している株式会社x gardenはXR事業導入コンサルティングを展開しています。

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バーチャルヒューマンは単なる目新しい技術から、本格的に活用する段階に差し掛かろうとしています。

エンターテイメントや広告の分野だけにとどまらず、教育や介護、建築業界など様々な業種・業界への活用も期待されているバーチャルヒューマン技術。

来たるべきAI社会の礎となるのは、もしかすると彼らバーチャルヒューマンたちなのかもしれません。

※関連記事)【2020年最新|ARビジネス活用事例11選】効率化や精度の向上などAR化のメリットに迫る


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今泉滉平:株式会社x garden執行役員 / XR-Hub 事業責任者

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