網膜投影型ARディスプレイの仕組み|透過型グラス(Hololens)との違いやメリット・デメリット


ARグラスや最新のディスプレイにおいて「網膜投影」というワードを耳にしますが、「網膜に直接映像を投影する」という意味や仕組みを理解している方は多くはないのでしょうか。

この技術は近年急速に発達しており、今回は既に製品化もされています。

今回は最新の網膜投影ディスプレイを紹介しつつ、網膜投影の仕組やARグラスへの応用方法に関して詳しく解説していきます!

網膜投影の仕組みとは – 2つのタイプが存在

網膜投影とは、網膜に直接結像させる技術を指します

近視や遠視などは、レンズの役目を果たす水晶体の機能が低下してピントが合わなくなってしまったことによっておこるものですが、網膜に直接映像を投影する事によって、利用者が近視や遠視などでもメガネやコンタクトレンズによる視力矯正なしで鮮明な像を見ることができるのです

広く理解されている仕組としては

「瞳孔の中心に光を通して網膜に映像を直接届ける」

というものですが、瞳孔の中心を通る光はレンズ劣化状況に左右されないため、極度の近眼や遠視の人でもくっきりとした映像を見ることができるのです。これを「マクスウェル視」と言います。

網膜投影と言っても、その方式は実は複数あります。ここでは代表的な方式をご紹介します。

1.マクスウェル光学系

簡単に言うと「プロジェクター形式」で網膜に映像を投影します。

仕組み的にはピンホールカメラの原理に近く、光を瞳孔の中心に通して網膜上に結像させます。

瞳孔の中心を通る光はレンズ(水晶体)の屈折性能に影響されないため、ピント調節機能が劣化した方(要するに近眼や遠視や老眼の方)でもクッキリとした映像を網膜に映すことができるのです。

弱点としては、映像がプロジェクターの解像度に依存してしまう点が挙げられます。こちらを解消するのが、2のレーザー走査工学系になります。

2.レーザー走査光学系(落合氏の研究領域の一つ)

こちらはテレビと同じ原理で、赤・緑・青のレーザー光による水平走査線を高速に走査して網膜上に「映像を書き込む」ように結像させる方式です。

  1. 3色のレーザー光源を、パワーを変えながら色を作って1本のレーザー光にまとめる
  2. その1本のレーザー光を、網膜上で細かく動かしてラスタースキャンさせる
  3. 残像効果によって昔のテレビさながらに網膜上に描画する

という仕組みです。

こちらも光を瞳孔の中心に通すために、水晶体のピント調節機能が劣化した方でも鮮明な映像を見ることができるのです。

また、「プロジェクターの映像を投影」ではなく、「レーザー光を使って網膜に書き込む」仕組みですので、解像度に囚われず限りなく人間の視界に近づけることが可能になります。

(マスクウェル光学系が「4K」や「8K」とすると、レーザー走査光学系は「無限K」が可能なイメージです)

情熱大陸で紹介された落合陽一氏の投影技術

2017年11月放送の「情熱大陸」で紹介された「Air Mount Retinal Projector」はフレームに仕込まれたカメラがとらえた映像を直接網膜に投影し、近眼も遠視も老眼も関係なくクッキリとものを見ることができるようになるものです。

筑波大学准教授の落合陽一氏が率いるピクシーダストテクノロジーズ株式会社が研究を重ねている技術ですが、実際の風景だけではなく、もちろんARコンテンツも投影することができるようになっています。

網膜投影型ディスプレイと透過型ディスプレイ(Hololens)の違い

では改めて、従来の透過型ARメガネとの違いを見ていきます。

ここまでの説明で理解した方も多いかと思いますが、

  • 透過型ARメガネ
    :グラス上に映像を投影
  • 網膜投影型ARメガネ
    :網膜に映像を投影

という違いになります。では、具体的に解説していきます。

透過型ARメガネ(HoloLens 2)の仕組み

透過型ARメガネの代表選手はHoloLensです。

先日、バルセロナで開催されているMWCにて後継機であるHoloLens2が発表されました。

※HoloLens2のスペック・価格・購入方法:
【HoloLens2完全解説】先代モデル、Magic Leap Oneとの比較から進化を大解剖

初代HoloLensに比べて大幅に視野角が向上し、ヘッドセットをかぶると映像が視覚いっぱいに広がるようになり、従来とはレベルの違うMR体験ができるようになりました。

HoloLensの仕組みは、透過型のハーフミラー上に映像を投射し、ミラーの先にある仮想スクリーンを見ることで映像を認識するものです。よって網膜をスクリーンとして直接投影しているわけではありません。

この方式でくっきりとした映像が見えるかどうかは、人間の眼自体のピント調節機能に依存します。そのため当然ながら、目が悪い人はメガネなりコンタクトレンズをつけてからヘッドセットを装着する必要があります。

網膜透過型ARメガネの仕組み

一方で網膜投影型ARメガネは、網膜に直接映像を投射することで映像を認識させます。

ポイントは、肉眼で見ている景色の上にレーザーで投射された映像を上書きすることができるため、AR表示が可能であるということです。

網膜投影の特性ゆえにどこを見ていてもピントが合うので、非常に自然に視界に溶け込むという特徴があります。

網膜投影型ARメガネの代表選手はRETISSA Displayです。

 

「RETISSA Display」は株式会社QDレーザが2018年8月に発売した網膜投影型のARグラスで、三原色レーザー光源からの微弱な光と高速振動する微小な鏡(MEMSミラー)を組み合わせ、網膜上に映像を描き出すレーザー網膜走査技術「VISIRIUMテクノロジ」を採用しています。

「RETISSA Display」はHDMI端子を装備しており、基本的には外部映像を見るために作られているデバイスで、もちろんARにも活用することができます。

▼QDLaser VISIRIUM JP

このデバイスは片目に映像を投影する方式のために右目用と左目用が存在しており、両眼用のデバイスは現在開発中となっています。

網膜投影型ARメガネのメリットとデメリット

もちろん網膜投影型ARメガネにもメリットとデメリットがあります。

メリット

最大のメリットは、網膜さえ正常であれば、近視や遠視などの水晶体の状況に影響を受けず、くっきりとした映像を見ることができることです。

また網膜投影型は、消費電力が少なく、小型化への可能性があるなど、様々なメリットがあります。

デメリット・弱み

一方で網膜投影型のデメリットは目の動きに少し弱いことです。

目が動くと瞳孔も動いて光を蹴ってしまうため、アイボックス(映像を綺麗に見るために目を動かしても良い範囲)が狭いのです。

もちろんこのデメリットであるアイボックスを広げる試みもあります。

前述のピクシーダストテクノロジーズ社のAir Mount Retinal Projectorはメタマテリアルミラーという素材を用いた新たな網膜投影手法により視野角とアイボックスを広げることに成功しています。

最後に

AR・VR関連の最新技術に関しまして、下記記事にて詳しくまとめていますので、是非読んでみて下さい。

最新のVR技術に関して

最新のAR技術に関して

まとめ

いかがでしたでしょうか。

網膜に直接映像を映し出すことができる網膜投射型ARメガネは、ARでの活用だけにとどまらず、前述の株式会社QDレーザ社は、ロービジョン(社会的弱視)の方に視力を取り戻す医療機器としての可能性も模索しています。

厚生労働省が行った統計調査によると2007年における日本の視覚障害者の数は約164万人で、そのうち何とか見えるものの不自由な生活を送っている“弱視者”は約150万人に上ります。この150万人をテクノロジーによって支えることができたなら、こんな素晴らしいことはありませんね。

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