AR/MRが医療・手術を変える|応用事例や学習効果・導入メリットを解説
昨今、業務利用が進むAR/MRですが、中でも特に活用需要がある分野が医療業界です。
近頃はCTデータから身体データを3D化することで「手術トレーニング(手術のシュミレーション)」「遠隔医療」といった応用が可能になっています。
今回の記事では
- ARの現在の医療業界における利用動向
- 医療におけるARの活用メリット
- 医療で活用されるARアプリ
- 実際の医療現場でのAR活用事例
といった点に焦点を当てて解説していきます。
医療関係者はもとより、AR開発者にとっても大注目の内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
医療における3つのAR利用カテゴリ
現状、医療現場でのARは大きく分けて下記3つのカテゴリに区別できます。それは
- 手術のシミュレーション
- 患者への説明手段
- 新米医師の教育支援
の3つです。それぞれ詳しく見てみましょう。
利用例1:手術の事前シミュレーションで活用
手術には執刀者だけでなく複数の人間が関与するため
- 麻酔や薬物投与は、どの血管から行うのか?
- 切開はどのような順番で行うのか?
- 各プロセスで使う医療機器は何か?
といった事前シミュレーションは手術の成功確率を高めるために極めて重要なプロセスです。
しかし、この事前シミュレーションは、レントゲンの写真・文章を使って行われることが一般的で、チーム内の認識を統一することが難しい現状がありました。
一方で ARは3DCGを使うことで文字や写真だけでは伝わりにくい患者の身体特徴や手術プロセスを認識齟齬なく伝えることができます。
これは伝達性の観点で、従来手法よりはるかに優れた方法と言えます。
他にもARはシミュレーション時だけでなく手術中、ARグラス越しに患者の血圧や心拍といった身体情報を表示することも可能です。
つまり事前のシミュレーションだけでなく、手術中の患者のモニタリング機能としてもARは利用できるのです。
米国医学大学院を卒業した人の3割が手術未経験で現場配属
米国では、医学大学院を卒業した新米医師の約3割が手術の実施経験なく、現場に配属される という実情があります。これは手術訓練を行うためには「実際の患者がいなければならない」という機会的な制約が背景にあり、生徒の数に対して患者が足りないという構造がありました。
しかしVRやARを活用し訓練用の人体を3Dモデル化することで、本物の患者の人体が必要なくなり、多くの医療学生に訓練機会の提供ができるのです。
模型を使うよりも、低コストで訓練可能
手術のシミュレーションに関しては、模型を使う方法もあります。
しかし、 数多存在する病症の全てを、模型で再現するというのはコスト観点からあまり現実的ではありません。
それは病院側がそれほどの教育コストを投資できないという財務的な実情があるからです。
しかしARであれば3DCGモデルを1回作成して保存してしまえば、何度も活用することができるうえに、他の病院でも、当該モデルを使い回して訓練に活用することができます。
「1度作ってしまえば何度も使いまわせる」というARは低コストな訓練方法という意味で、病院経営的観点からも有用なのです。
利用例2:患者への説明をビジュアル的に伝えられる。
ARは医者が患者に対して症状や術式の説明を行う時にも有効です。
みなさんもイメージがあるかと思いますが、 医者から患者への症状説明は多くの場合は口頭による伝達がメインです。
しかし医者からの説明は得てして専門用語が多く、患者側にも医療知識が乏しいことから「病気の原因」や「手術で何をするのか?」と言ったことがビジュアル的に伝わりづらいという側面・デメリットがありました。
対してAR・MRを用いた病症の説明であれば患者も、3Dモデルを見ながら説明を受けるため直感的に医者の言葉を理解することができます。
このARを用いた医者の説明は「インフォームド・コンセント」の観点からも有効です。
インフォームド・コンセントとは医療倫理用語で患者/家族が病状や治療について十分に理解し、医者からの説明をどのように受け止めたか、どのような医療を選択するか、患者・家族だけでなくケアマネージャーなどの医療関係者と認識を合わせ、合意形成することを指します。
患者が症状や手術プロセスを正確に理解し、納得感を持って意思決定するためにもAR/MRを用いたコミュニケーションは有効なのです。
利用事例3:医療・手術の訓練/教育での活用
まず前提として日本の医師の数は世界的に見ても少なく、10万人あたりの医師の数は、OECD(経済協力開発機構)の加盟国の平均値と比べると70%ほどに留まっています。
また、 都道府県における医者の数の格差 も存在し、東京都と岩手県では人口10万人あたりの医者の数が20年前と比較して2倍近くまで開いているという現状があります。
このように【過疎地における医師不足】が大きな問題になっているのですが、そこで期待されるのがARを活用した遠隔医療です。
これはARグラスを使った新人医師が熟練の医師から遠隔で手術の指示してもらいながら執刀することで、医師不足を解決するというものです。
HololensやMagicLeapといったAR/MRグラスには前方を映し出すカメラが搭載しており、手術中の視覚情報をリアルタイムで遠隔地に中継することが可能です。
(この医療現場におけるリアルタイム配信といった使い方は2020年春より始まる5Gによる通信環境の進化で最も恩恵を受けるユースケースの1つでしょう)
手術は当然ながら、専門分野/得意分野が細かく分かれているため経験の少ない手術を行う際に熟練者のアドバイスが必要になるというケースは一定発生します。
こういった場合に熟練医師の補助を遠隔で得られることは手術の成功率を高める施策として有効なのです。
これは戦地などで負傷兵の緊急手術などでも活用でき、設備が整っていない状況でもARを活用することにより救命確率も高めるはずです。
医療機器の取り扱いでもARの効果が絶大
他にも新しい医療機械は操作も複雑なケースが多く、取り扱いが難しい一方でミスが許されないという実情があります。
この医療機器を扱う訓練という文脈においてもARの価値が発揮されます。
というのもAR/MRグラスで最も利用される頻度が高いケースが飛行機や車などの「機械整備士のトレーニング」であり、このARの活用方法はそのまま医療器具でも応用することが可能です。
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上記のGif映像のように医療機器にAR画像や動画をオーバーレイさせることで機器の操作を直感的に理解することができます。
このようにARは様々な用途で活用される可能性を秘めているのです。
ARの活用・導入を検討している場合
ここまで医療とARに関する大まかな市況を解説してきましたが、本メディア「XR-Hub」を運営している株式会社x gardenはAR/VR事業コンサルティングや開発事業を展開しています。
- 自社の新規事業としてAR/VR活用を検討しており、企画やアイディアを相談したい
- AR/VRアプリケーションの開発を依頼したい
- 市場調査やユースケースの収集・事業企画書作成などのコンサルティングを依頼したい
という企業担当者の方はこちらからご相談ください。
AR×医療サービス4選
それでは具体的にARやVRを活用した医療サービスを提供する企業を見てましょう。
医療用の3DCGツールを提供す – EchoPixel
冒頭で手術のシミュレーションにおけるAR活用を説明したように、手術には常に想定外のリスクが発生するため、患者の身体がどのようになっているのか、手術を始める前にはっきりと認識できれば手術の関係者は助かるはずです。
それを実現するのがこのEchoPixelという画像処理テクノロジーです。
EchoPixelのTrue 3D Viewerでは、患者の体がどうなっているのかを仮想的に確認することができ、インタラクティブに3Dデータと干渉、操作することができるため、シミュレーションツールとして機能します。
Google Glassを用いた診療サポートサービス – Augmedix
医療向けソリューションAugmedixを活用すると、顧客である医師は患者のリアルタイムに医療データを集め、アップデートし、いつでも閲覧することが可能になります。
彼らは「医者はカウンセリング中にPCの画面をクリックしたり、カルテを見るため、目の前の患者に集中することができていない」という課題に着目。
同社のビジョンは「診察中の医師の顔をコンピューターの画面から患者に向けることで、医師と患者との交流を促進し、人間味のある対話を促す」ことにあるそうです。
心臓手術などの教育プログラムとして活用される SentiAR
SentiARはHololensを使い、手術患者の身体を解剖学的に表示し、リアルタイムでホログラフィックを視覚化する3Dプラットフォームです。
上記でご紹介したEchoPixelと似ていますが、 Hololensを活用していることからハンズフリーでホログラムを視認することが出来る 点が特徴的です。
SentiARを用いた臨床医向けの心臓手術の訓練プログラムは、文字通りこれまでとは次元の異なる学びを提供することが出来ます。
しかも複数のAR/MRデバイスでの同期機能も搭載しているため、熟練の医師とコミュニケーションしながら訓練を行うことができる点も魅力的と言えるでしょう。
ヒューマン・アナトミー・アトラス2018
人体の詳細なデータをARを用いて確認することができるアプリケーションです。
男性と女性の3D解剖モデルを現実空間にAR表示できるほか、各器官を解剖学レベルで確認することができるようになっています。
このアプリはリリースされており、iOSで利用可能です。
HoloEyes
HoloEyesは医療分野に特化した、VRスタートアップです。
患者のCTデータをポリゴンに変換し、VR機器で確認できるクラウドシステムなどを提供しています。
CTデータを活用して3Dデータを生成し、VR空間内で立体画像化できるソリューションとなっています。
【医療従事者の方向け】XR-Hubは医療業界へのAR導入を支援しています。
XR-HubではAR/MRに精通した医療コンサルタントによる技術導入サービスも実施しており、国内の大手クライアントへの技術導入実績が多数あります。
- ARやVRを活用した医療の効率化を実現したい
- 病院での教育・訓練ソリューションとしてAR/MRを活用したい
上記のニーズを持った医療関係者向けのコンサルティングも行なっておりますので、もし「話だけでも聞いてみたい」と興味がありましたらこちらからお問い合わせください。
※初回の相談は無料で承ります。
まとめ
国内の医療分野で使われるVR・AR・MRの市場規模は2021年に約153億円、2026年には約342億円と言われています。
AR技術やCG技術の向上、そして5Gという通信速度の進化によってAR/MRの医療さらなる利用加速が予想され、ますますAR・MRの医療サービスには注目が集まりそうです。
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