VRゲームを月1でリリース!? トリコルCTOに聞くスピード開発の裏側!


XR-Hub編集部による、XR業界のイノベーターや先駆者達を取材する「XR Innovators Talk」シリーズ第一弾。

今回はVRコンテンツカンパニーであり、2018年11月にリズムアクションゲーム「Mu-tune」をOculus Goで提供した株式会社トリコルCTO衣川氏を取材しました。

1ヶ月~1ヶ月半でVRコンテンツ1タイトルをリリースするという爆速開発の裏側や、物作りに対する組織哲学、そして今後の展望について聞きました。

Oculus Goの可能性に賭けて始まった開発

同社取締役CTO 衣川氏

XR-Hub編集部)早速、今回のゲームの開発の背景を教えていただいてもよろしいでしょうか。

まず、なぜOculus Goをプラットフォームとして選んだのでしょうか?

※以下、斜体青文字箇所は編集部の質問。

会社のツテでOculus Goの施策品が、世の中に出回る1年くらい前に入手できたことが大きかったです。

会社でOculus Goを初めて触った時、この品質のデバイスが23,000円とかで買えちゃうってことで、「これはめちゃくちゃ凄いな」と。デバイスの可能性を感じたことと、2018年の春くらいBeat Saberが盛り上がりましたが、スタンドアローン型VRデバイスでの音楽ゲームはまだ、市場として空いてる時期だっためチャレンジした。という背景です。

なるほど…、Oculus Goの試作品を見て、可能性に賭けてみた訳ですね。

開発における「2割の法則」と「余白のデザイン」とは?

それでは次に、御社で重要にしている開発の考え方や哲学をお聞かせ頂けますでしょうか。

哲学⑴ 既にあるモノや行動から逸脱しない「2割の法則」

うちの開発の現場で最近キーワードになっているのが「2割の法則」というのがあります。

これは、人って既知のものや現行の習慣から、2割以上離れたものに触れると「未知」として捉えてしまい、遊ぶハードルが上がってしまう事を指しています。

既存の行動から離れた、未知すぎる体験は結局使われなくなってしまうんですよね。

これは逆に言えば、「今すでに、スマホやPCの2次元ディスプレイでユーザーが行う無意識の行動に、うまく溶け込むUXをデザインをすべき」というのが真意です。

今回で言うと、「音楽動画を見る」という現状のユーザー行動に着目して、その行動から逸脱しすぎないプロダクトを創ろうと考えました。

音楽動画を見る時って、気分良い時ってリズムに合わせて首振ったりしますよね。「ふんふん」って。

その既に行動習慣としてある首の動きに対して、その行為がより、気持ちよくなるゲームを創ろう!というのが企画の背景です。

なるほど、面白いですね。すでにある行動に溶け込むゲームデザインというのはVR/ARのようなインタフェースが新しい領域だと、ユーザーリテラシーもまだ低いこともありますし、非常に重要な考え方かもしれませんね。

哲学⑵ ユーザーのVRリテラシーとコンテンツにギャップを作らない。

ユーザーリテラシーの話でいうと反省点あって、例えばうちでは「Counter Fight」というラーメン屋が体験出来るゲームを開発したことがあるんですが、Ver.1は凄くシンプルに作ったのに、結構好評で売れたんですね。

この「Counter Fight」が売れたので、「これはいける!もっと機能を沢山付けよう!」と思って、続編としてパワーアップさせた「Counter Fight SE」出してみたんですけど、「Counter Fight SE」はユーザーがスムーズにプレイできなかったんですよ。

ダウンロードはしたけど継続的に遊んでもらえなかったという事でしょうか?

そうです、ユーザーヒアリングをしても「これはちょっと難しい」っていう声が多かったんですね。VRリテラシーがまだ機能に対して追いついていなかったんです。

それはまさに2割の法則を越えていた?ということでしょうか?

はい、たぶんこれは2割超えちゃってたやつです。なのでここは少し反省してます。ただ面白いことに最近になってこの「Counter Fight SE」が売れ始めてたんですね。

もしやユーザーにリテラシーが追いついてきたという?

そうなのかもしれません。ハードの販売時期から、時間の流れと共にユーザーのVRリテラシーも変化するので、もちろんターゲットありきではあるんですが、そのあたりをコンテンツに反映させるとか、チュートリアルを最適化させるとか、必要だったなと思います。

確かに…、スマホの時を思い出しても、販売されたばかりの2010年とか女子高生は全くスマホ使いこなせてなかったですもんね。

哲学⑶ 作り手も想定しない、ユーザーが遊べる「余白」をデザインする。

他に開発で拘ってるポイントとかありますか?

「意図しないユーザーの遊ばれ方も、しっかり実現する」という部分でしょうか。遊びの余白の設計とでも言うんですかね。

つい先週くらいあった話で、どんぶりのご飯を注ぐのが主旨のゲームなのに、どんぶりのご飯を落とさずに何回トス出来るか?とか、お客さんに卵を投げて遊ぶみたいな動画が上がってたりするんですよ。しかもそれがなんかバズって数万回も再生くらいされてたり。

その遊び方は想定してなかった!みたいな。

そうなんです。でもそういう遊ばれ方は開発側からすると、すごく嬉しくて。

子どもの頃とかそうだと思うんですけど、「自分たちで遊び考える」という自由度の高さが本来のゲームの楽しさなので、それは全然構わないですし、大歓迎です。

最近だと国内のVtuberや海外の人気Youtuberの方々にもツッコミ所のある面白動画をアップして頂いてるので、そういうのを見ると嬉しくなりますね。

↑同社サービスを意図せぬ形で遊び、アップするユーザー達

↑人気Vtuber「おめがシスターズ」の動画でも登場

↑海外Youtuberによる独特でツッコミ所満載な遊び方も

↑チャンネル登録者数750万人を超える人気海外Youtuberによるプレイ動画。2018年11月時点で再生回数は370万回を超える。

1チーム2人でプロダクト作りきる!独自の開発体制

ありがとうございます。貴社の物作りに対する哲学がクリアに見えてきました。

次は開発体制について聞きたいのですが、現状2人1組でチームを作ってるとか。

そうです、うちは最初からエクストリームプログラミングをベースにした独自の開発手法を取ってて、1チーム2人で1プロダクトを制作してます。チームにはプログラマーとデザイナーしかいないですね。

ゲームコンセプト・企画案なんかも関係者が2~3人しかいないので一瞬で決まります。そのあとプロトを作るんですけど、大体それが6時間くらいです。

え!プロトで6時間ですか?

6時間くらいですね。音ゲーだったら首を振ってノーツをプレイする部分を最初の6時間くらいで作って試してみて、「これはいける!」となったら、しっかり作りこむ。

凄いスピード感ですね。ちなみに1チーム2人でプログラマーとデザイナーの最小人数にしてるのはどういう背景でしょうか?

弊社の強みとしているのは、仮説検証するための開発スピードです。

大体1本あたり1カ月から1ヶ月半くらいでリリースまでするのですが、その為には当然スピードを早めないといけません。

しかし従来の手法はコミュニケーションコストや伝達ミスが多過ぎる。

例えば、コンセプトアートの世界観の担当者と、3Dデザイナーが別々に居るって普通にムダだから、そこの分断された領域を1人でやってしまおうという話です。

うちではアートディレクター兼3Dデザイナーが1人でやってるので、3Dモデルも世界観に近いものが最初から作れます。世界観を作った本人が作るので当然ですよね。

出戻り工数も圧縮されるので、結果としてめちゃくちゃスピードがあがったと思います。

採用観は「未経験でもポテンシャルを信じる」こと

なるほど、そうすると必然的に1人の職務範囲が広くなると思うのですが、そこは採用時点でフルスタックな方を採用しているのか、それとも入ってから環境に適応するためにキャッチアップしてもらう感じのどちらなのでしょうか?

そこは後者かもしれません。むしろ前者はハマらないケースもあると思っています。

全員が全員じゃないんですけど、フルスタックみたいな経験がある人って諸刃の剣な部分があって、もちろん戦力にはなるとは思うんですけど、今までのソシャゲやPCゲームやり方が染みついちゃってて、VR業界のような新しい開発環境に適応できないケースってどうしてもあると思うんです。

当たり前の違いに対応出来ないという事でしょうか?

そうです。

弊社でいうと、例えば最初に採用したエンジニアって完全に未経験だったんですけど、1からVRにおける開発を教えていったところ、今やその人1人で1タイトル持ってるんです。

VRって、スマホやPCとは全くインタフェースや開発の考え方が異なるので、従来の常識が通用しないケースが多々あるんですよね。

なるほど、インターフェイスが全然違いますもんね。既存のゲームと。

そうなんです。経験があって「べき論」が強い人ほど、開発フローに違和感感じちゃったり、ストレスになる事があるのではないかなと思っています。もちろん人にも寄ると思うんですけど。

そのような背景と仮説があって、最初のエンジニアは未経験だけど素直な方を採用しました。

失敗覚悟でチャレンジしてみたところ、実際にやってみたら上手くハマったので、未経験でもポテンシャルを信じるというのが弊社の考え方の1つかもしれません。

「最高のVR体験で 未来を創る」というビジョンについて

ありがとうございます。それでは最後の質問です。御社の中での今後の展望についてお聞かせください。

VR、XRを一過性のブームで終わらせない「最高のVR体験で未来を創る」というのが当社のビジョンなので、そこは強く思っています。

VRってこれまで何度も「来るぞ!来るぞ!」と言われ続けてましたが、まだ本当に市民権を得たとは言い難い。

2016年頃のVR元年から2年が経とうとしてますが、来年の2019年から2020年にかけて、本格的にVRの時代が来ると思っていて、Oculus QuestやVRZONEなんかの事例も増えて来てますし、来年からVRに触れるユーザーは飛躍的に増えると思っています。

その時に少しでも「VRって面白いよね」ってエンドユーザに可能性を感じて貰えるコンテンツをたくさん揃えておきたいと思っています。

良質なコンテンツが揃えば、VRやXRの未来に繋がると思ってますし、「XRを廃れさせたくない。流行で終わらせたくない。」という想いが強くあるので、中期ビジョンとして、まずはVRコンテンツを充実させたいと考えています。

なるほど、自社だけでなく、「VR業界の発展に寄与したい」という衣川さんの想いがひしひしと伝わってきました。

今後もユーザーが熱狂するような面白いプロダクトが生まれるのが楽しみです。

本日はどうもありがとうございました!

【編集部Pick Up 本日の名言まとめ】

  • ユーザーの既存習慣に着目し、行為に溶け込む「2割の法則」を意識する。
  • 現状のユーザーVRリテラシーから逸脱した機能は作らない。
  • VRは開発プロセスのスタンダードが不在の領域。だからこそ未経験でも柔軟な人を信じて育てる。

いかがでしたでしょうか今回取材させて頂いたトリコル社が提供している音楽ゲームはこちらからダウンロードできますので、Oculus Goをお持ちの方は、ぜひ一度遊んでみてください!

ダウンロードはこちら

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