物流・運輸のAR活用事例最新版|課題とソリューション、コスト感まで徹底解説


ARやVRといった新しいデジタル・テクノロジーはエンターテイメントだけではなく、日本の産業分野での生産性を大きく向上させる可能性を秘めています。

その事を確かめるために、今回は特に物流・運輸業界にスポットをあてて、ARの導入効果について検討してみましょう。

この記事では

  • 物流倉庫・運輸業界におけるARの導入例
  • AR導入のその実用性、メリット
  • 実際の現場での活用事例

などについて見ていきます。

業界内で多くの問題に直面している当事者はもちろんのこと、ARの活用方法を探っているエンジニアや経営者にも必読の内容です。

ぜひ最後までご覧ください。

物流倉庫・運輸の課題と、「なぜARを活用すべきなのか」

物流とは、企業が自社の商品を消費者に届けるための全ての過程を指す用語です。

商品が手元に届くまでには、保管、包装、ピッキング、荷役、流通加工、情報処理、輸送・配送など様々なプロセスを経ており、これらはすべて物流という大きなカテゴリーの中に分類されます。

「小口配送」と「人手不足」という2つの課題

こうした様々な流れの中で構成される物量業界は今、「小口配送の増加」と、「人手不足」という大きな問題に直面しています。

Eコマースの発達により個人消費者への配送量が急激に増加し、物流・運輸業界に大きな負担がのしかかっています。

昨年のヤマトグループの働き方改革への取り組みが大きなニュースとなったことも記憶に新しいのではないでしょうか。

そしてその負担増加に追い打ちをかけるのが、少子高齢化や採用難による人手不足です。

トラックのドライバーだけではなく物流業界全体の様々な現場で人手不足が顕在化しており、大きな課題となっているのです。

ARは業務効率化の文脈で、物流業界での活用が期待されている

こうした中で、物流・運輸業界のこうした問題の解決策として関係者が強い期待を寄せているのが、技術革新による作業の効率化です。

例えば、ドローンやトラックの自動運転による配送や、AIを用いた物流システムの効率化などは分かり易いでしょう。

AIの活用は着実に進んでいますが、ドローンや自動運転は技術的にも課題が多く、また関連する法整備も追いついていないのが現実です。

そこで注目されているのが、ARです。

ARは導入までの迅速な速度感や導入難易度の低さ、作業効率を大幅に改善できる点が大きな魅力で、海外を中心にARの導入成功事例が生まれ始めて来ています

では、物流業界におけるフローの中でどのようにARが活用されているのか 、作業ベースで順番に説明していきます。

導入領域例⑴ 倉庫内のピッキング作業

「ピッキング」とは、倉庫内にある荷物を集める(ピックアップ)する作業のことです。

ECが拡大するにつれて、扱う商品の数が増加、ジャンルも細分化し、このピッキング作業の効率化が業界内でも課題になっています。

実際、物流の現場では

  • ピッキングに時間がかかる
  • ピッキングのための動線が複雑かつ無駄が多い
  • 商品の位置が分かりづらい

などの課題に頭を悩ませているようです。

ここで役立つのがARグラスです。

ARは透視型のグラスに3DCG情報を投影できる(=目の前に見える景色に、必要な情報を重ねて表示させることができる)ことが特徴。

これをARをピッキングに活用するとどうなるか。

車のナビゲーションシステムでは、目的地を設定すると画面にルートが表示され、初めての道でも安心して運転することができます。

これはスマホですが、ARグラス上に投影することで、倉庫内のピッキングにも応用できるわけです。

ARグラスに 自分が集めるべき商品の場所やルートを表示させることができれば、ARグラスを着用すればピッキング作業が初めての人でも、また新しく搬入された商品であっても問題なく収集することができます 

導入領域例⑵ オペレーションルーム・倉庫間の遠隔業務支援

ARグラスを活用すると、熟練者が離れた場所から初心者へリアルタイムでアドバイスする事も可能になります。

例えば、倉庫内での保管や包装に関してハンズフリーでの情報確認が可能になったり、必要な情報を音声で入力できるようになるなど、現場の作業員の苦労が大幅に軽減できます。

さらに重要なのが、ARによる遠隔業務支援で作業員の熟練度不足を軽減できるという点です。

冒頭でも述べたように、物流業界でも人手不足は大きな課題。

物流の現場では様々なノウハウが必要になりますが、 初心者でもARグラスを使ったリモートサポートによって作業効率を大きく向上させ、ベテラン作業員と変わらない労働生産性が可能となります。 

効率的な動線(人やモノが移動する経路)の確立は、物流の現場においてはとりわけ重要です。

ARグラスを作業員が着用することによって、倉庫内での人やモノの流れが可視化され、より明確になります。

そうした情報を集積することによってボトルネックを発見し、現場の環境や物流スピードなどをさらに改善することができるようになるわけです。

導入領域例⑶ 訓練・教育(シミュレーション)

物流業界においても、作業員の訓練や教育は大きなテーマです。

物流現場をAR/VRで再現し、その仮想空間内で体験型のシミュレーション・トレーニングを実施することは事故防止にも大きく役立ちます。

例えば、

  • 重量物を取り扱う際の運搬の注意点
  • 作業前点検のプロセス
  • 荷崩れや落下などの荷役災害の防止
  • 精密機器の使い方

etc…

これらの作業をARやVRを使うと実際の現場をバーチャルで再現でき、より実践的で効果的な訓練が可能となります。

※関連記事:AR訓練・トレーニング事例|実績やメリットを最新の動向から分かりやすく解説

また、物流・運輸業界では現在モーダルシフトへの大きな転換が行われています。

物流現場へのAR導入ソリューション「XR-Hub DX」

ここまで物流・運輸業でARを導入するメリットを解説してきましたが、本メディア「XR-Hub」を運営している株式会社x gardenは物流・製造業界向けAR/VRコンサルティング・開発事業「XR-Hub DX」を展開しています。

  • 労働生産性が頭打ちになっている
  • コロナ下で、遠隔教育や遠隔作業指示を実現したい
  • 事業効率を高めたい

といったニーズがある企業担当者の方は初回無料で相談を承っておりますので、ぜひこちらからご相談ください。

参考:モーダルシフトとは?

モーダルシフトとは、物流業界の深刻な人手不足やトラック運搬による環境負荷の高まりなどを受け、国と業界が推進して行う、鉄道や船舶を用いた貨物輸送の注力運動を指します。

トラック中心の運搬を、鉄道や船舶などとバランス良く分散することで、物流のさらなる効率化と関係者の負荷の軽減を目指しています。

こうした大きな転換にあたって、鉄道や船舶の物流において大がかりな教育やシミュレーションが不可欠になりますが、ARやVRをうまく活用することによって、訓練全体の低コスト化・効率化が図れます。

運輸にARで使用されるハードデバイス(ARグラス)3選

ARは専用のグラス型ウェアラブル端末を装着して利用します。

ここでは、現在実際に利用されているARグラスを3点ご紹介しましょう。

⑴HoloLens / HoloLens2

HoloLens」はMicrosoft社が開発・販売するMRデバイスで、2019年2月に最新の「HoloLens2」が発表されました。

HoloLens2はCPUやGPUなどを本体に内蔵するスタンドアローン型のARグラスで、視野角などのスペックも大幅に向上させました。

元々HoloLensは業務支援用のツールとして開発されたウェアラブル端末ですが、HoloLens2になってその方向性はより明確になりました。

HoloLens2では「Dynamics 365 Remote Assist」や「Dynamics 365 Layout」などの業務支援アプリケーションが利用でき、クラウド上で集積された情報をチーム内で共有することができます。

遠く離れた場所にいる作業員にもリアルタイムで指示出しが可能で、それを3DのCGグラフィックで具体的なイメージとして表示させることが可能です。

物流業界でもノウハウの共有や高い離職率、複雑化する作業内容などの問題に直面していますが、HoloLens2を活用すれば、作業員が必要な時に必要な情報を、入手することができ、作業効率の大幅な向上が期待されます。

※参考記事:
【HoloLens2完全解説】先代モデル、Magic Leap Oneとの比較から進化を大解剖

【HoloLens2 基本情報】

⑵Google Glass

日本でも大きな話題となったGoogleが開発・販売する「Google Glass」。

プライバシーなどへの懸念などから結局一般発売は見送られたことを覚えている方も多いでしょう。

「Google Glassはオワコン」といった声も見られましたが、 2017年に画面を大型化し、処理速度や駆動時間を改善した新しい企業向けデバイス「Google Glass Enterprise Edition」として販売されました 

そしてさらに2019年には最新モデルの「Google Glass Enterprise Edition 2」も発表されています。

Google Glass Enterprise Edition 2 の一番の大きな変更点が、OSがAndroid 8 Oreoになったこと。

それによってユーザーはすでに利用しているサービスやAPIを簡単に統合できるようになりました。

Google Glassは法人向けモデルのため、一般向けの販売はされていませんが、すでに物流業界でも利用が広がっています。

実際の活用例などは次の見出しで紹介します。

※参考記事:
Google Glassはオワコンじゃない?「第二世代」現在の姿と産業導入事例、今後の展望まで

6【Google Glass Enterprise Edition 2 基本情報】

⑶M300スマートグラス

「M300スマートグラス」はVuzixs社が開発するARグラスの次世代版。

Vuzixs社は1997年からヘッドマウントディスプレイやスマートグラスを供給してきた実績のある企業です。

このM300スマートグラスは製造業や物流業などの産業用に開発されました。

ボイスコマンドにも対応しているため、特に両手での作業が必要なピッキングや荷役の際などに本領を発揮

物流業界だけではなく、航空宇宙産業製造業や航空業界、医療現場など多くの業種で導入が広まっています。

さらについ先日、スペックをさらに向上させた「M400」の発売もスタート。

物流業界におけるARグラスさらなる普及が期待されます。

※参考記事:
スマートグラス「Vuzix Blade」徹底解説 – 2019はAR元年になるか?

【M300スマートグラス 基本情報】

ではここからは、ARグラスを実際に物流や運輸業界で活用している事例を3つ取り上げながら、ARが生産工場性にどのように寄与するかを見ていきましょう。

物流倉庫・運輸領域のAR活用事例①:DHLのGoogle Glass活用

国際運輸を手掛ける物流法手の「DHL」社は、主にピッキングの支援ツールとして上で紹介した「Google Glass」を活用しています。

DHLのピッキング作業ではこれまで作業指示書を手に持ちながら作業を行っていましたが、保管場所や必要な情報をGoogle Glassに表示させることによって、作業効率が大きく向上しています。

導入領域 – ピッキング

ARの効果性を確かめるために、DHLでは実際に自社の倉庫内でGoogle Glassを使ったピッキング業務の実証実験を行いました。

これまで紙ベースで行っていた商品管理をGoogle Glassに一元化。

Google Glassを装着した作業員がタスクをスキャンすると、ピッキングする製品、場所、量などがARで表示されます。

あとは指示に従って棚まで移動し、指定された製品を取り出すだけ。

ピッキング自体の作業時間が短縮されることはもちろん、ミスが激減し、全体的な生産性が大きく向上ました。

導入効果

DHLではGoogle Glassを使ったピッキング作業におけるAR活用の実証実験を3週間にわたって行いました。

この実験に参加したDHLの作業員は、当初の想定を超えるスピードでピッキング作業を完了させることができたそうです。

同社の責任者はARの導入効果について

Google Glassを使った作業は非常に直感的で、作業員からも高い評価を得ている。これまで手にしていた紙資料が不要になったことで両手が自由になり、より効率的に作業が行えた。ARを用いた視覚的なサポートは作業のスピードアップ、ミスの低減に繋がり、ピッキング作業を行う上で非常に強力なツールであることが証明された。

と述べています。

物流倉庫・運輸領域のAR活用事例②:チャンギ国際空港がM300を活用

シンガポールに本社を置き、空港地上業務などをアジア・中東の14ヶ国、47空港で行っている「SATS」社は、乗客の手荷物や貨物を取り扱うランプ業務にVuzixsのM300スマートグラスを用いています。

ランプ業務にARグラスを活用することによって、その場で搭載方法や搬入期待の確認を行うことができます。

またコントロールセンターも地上業務をリアルタイムで確認できるため、効率よく業務を遂行できるというメリットがあります。

導入領域

旅客機にコンテナを搬入する際に、重量バランスに配慮する必要があるため、順番や配置など指示通りに行わなければなりません。

これまでは紙の指示書を見ながら作業し、コントロールセンターともその都度無線で連絡を取り合っていました。

M300スマートグラス導入後は、作業員がコンテナに貼られたQRを読み取ると、ユニット番号やコンテナの詳細が記されたウィンドウがARでポップアップ表示されます。

コンテナ搬出を指示する作業員、機体まで運搬するドライバー、機体に搬入するオペレーターそれぞれが同じ情報を確認し、コントロールセンターともリアルタイムで情報を共有できるため、効率的で流れるような作業が可能となります。

フライト時間は分刻みで管理されているため、少しの遅れが全体に大きな影響を及ぼします。

全ての作業をミスなく、正確に素早くランプ業務を遂行するために、ARは欠かせないテクノロジーとなっています。

導入効果

SATSはチャンギ空港で業務にあたる地上作業員600人に向けて、M300スマートグラスを導入しました。

ARによって1フライトあたり15分の積載時間の短縮が期待できるとのことです。

作業員たちからの評判も上々で、特にミスが許されない現場で正確な情報がリアルタイムに表示されるARグラスは、ストレスの軽減や作業員たちの働きやすさにも大きな貢献を果たしているようです。

物流倉庫・運輸領域のAR活用事例③:NECが物流向けARソフトウェアを開発

国内でもARの活用は始まっています。

NECはARグラスの操作性を向上させるソフトウェア「ARmKeypad」を利用して、ARの利用シーンの拡大を提案しています(参考)。

ARmKeypadはARグラスとスマートウォッチを組み合わせ、自分の腕にAR表示されたキーパッドで操作を行うという独特のシステム。

自分の体の一部が入力端末になったような感覚で作業が行うことができ、物流倉庫はもちろん薬剤管理や設備の保全など、多くの現場でハンズフリーで業務を行えるようになります。

導入領域

NECはARmKeypadを物流業界の特にピッキング作業に活用することを提案しています。

同社では、自社の情報通信システムなどの設計や構築、運用、保全サービスなどをワンストップで提供しているNECネッツエスアイ・sDOC埼玉センターで実証実験を行いました。

同センターでは常に生産改革活動として、業務効率化や働き方改革の仕組みを研究していますが、これまで効率化が難しかったというICT機器のピックアップ作業にARmKeypadを取り入れることにしました。

導入効果

ARmKeypadの導入効果は目まぐるしく、 機器の保管、同期、ピックアップまでの一連の作業時間が従来の1台あたり平均40秒から、30秒まで短縮できたそうです 

さらに効果的だったのが、ピックアップ作業未経験者に対するARシステムの有効性です。

ピックアップのベテラン作業員と未経験者のARmKeypadを利用した作業時間を比較したところ、未経験者の作業時間が短い、という驚くべき結果が示されました。つまり、ARを導入することによって、ピックアップ未経験者であってもベテラン作業員と同じ生産性が期待できるというわけです。

もちろん、ベテラン作業員も「常に視点を前に向けることができる、ミスを犯す心配がないので自信をもって作業にあたれる」と、ARに大きなメリットを感じているようです。

まとめ(XR-Hub では物流倉庫・運輸のAR導入コンサルティングを無料で行なっています)

製造現場へのAR導入ソリューション「XR-Hub DX」

人手不足や小口配送の急激な増加など、大きな問題に直面している物流業界。

さらにモーダルシフトへの転換やAIの導入、自動運転による無人化など、これから物流業界は大きな産業構造の変化にも対応しなければなりません。

そうした中にあって、すぐに導入可能で大きな生産性向上が期待できるARシステムは、現場で働く人たちにとって作業の負担を減らし、ミスを恐れずに業務にあたることのできる支援ツールとして福音をもたらすことになるでしょう。

XR-Hubでは物流業界向けAR導入コンサル・開発事業「XR-Hub DX」を展開していますので、

  • ARやVRを、自社の物流システムに導入することを検討している
  • ARやVRを用いた運輸業務フローについて相談したい

こんなニーズがある方にはリサーチや要件定義書の設計、開発を含めご要望に応じたコンサルティングを行なっており、もし「話だけでも聞いてみたい」という方がいらっしゃいましたらこちらからお問い合わせください。

 

※関連記事:

【2019年最新|ARビジネス活用事例11選】効率化や精度の向上などAR化のメリットに迫る


DHL AR

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