【芸術と技術の統合】13億円を資金調達したTYFFON社 CEO/CTOトップ対談!
XR-Hubによる、XR業界の先駆者と知を共創するコンテンツ「XR Innovators Talk」第9弾。
今回は、国内屈指のMRエンターテイメントカンパニー「TYFFON」社CEO深澤研さんとCTO中橋英通さんによる豪華トップ対談です。
MR体験施設の先駆けとも言える「TYFFONIUM」を手がけ、13億円もの資金を調達しておきながらあまり素性の知られていないTYFFON社ですが、今回インタビューした経営陣の印象はまさに「自然体」。
淡々粛々と「ユーザーの感動体験を追求する」という職人的な姿勢がとても印象的なインタビューでした。
本日はそんな同社の
- 知られざる創業ストーリー
- ディズニーアクセラレータプログラムと学び
- アートとテクノロジーを共存させる組織の強み
- 中長期的な事業ビジョン
など、大変濃い内容となりましたのでXR業界に関わる方・興味がある方はぜひ最後まで読んでみて下さい!
Contents
知られざるTYFFON創業秘話
まずは早速ですが、御社の創業の沿革やCTOの中橋さんとの出会いから教えていただけますでしょうか。
創業のきっかけ – CTOとの出会い
深澤氏:私は前職でソニーグループのベンチャーに入社したのですが、そこで「ゾンビブース」という、顔写真を撮ると顔認識をして自動的にゾンビに変身させるアプリを企画しました。
そこで、CTOの中橋と仕事を一緒にしたのが出会いのきっかけです。
ゾンビブースは結構ヒットしたのですが、当時その会社の方針としてはBtoCよりBtoBに注力していくという方針だったので、中橋と「toCのエンターテイメントアプリを作ろう」と決起して、TYFFONを設立しました。
なるほど。
当時BtoCのARアプリでいうと成功事例も少なくリスクも大きかったと思いますが…、中橋さんはどういう想いで一緒に創業することを決意されたのでしょうか。
中橋氏:私はゾンビブースのアプリ開発においては「画像から顔認識を行い、それをアニメーションさせる」という技術領域を担当しており、「この技術を使ってコンシューマー向けに面白いプロダクトを作りたい」という思いがありました。
一方、会社としてはその技術をtoB領域で活用したがっていたので、利便性や機能性を強化するよう言われていて、私としては会社との方向性の違いに葛藤してました。
それに加えて元々「独立したい」という気持ちがあったので深澤に誘われた時、目先のリスクよりも自分の想いに突き動かされてTYFFONにジョインすることを決めました。
創業時から揺るがない「体験型の施設を創りたい」という想い
創業時から、アプリと同時並行で「TYFFONIUM」のような体験型施設を作っていこうと考えられていたんですか?
深澤氏:創業時に具体的なアクションは起こしていなかったのですが、頭の隅にはずっとありました。
前職でアプリを作っていたこともあり、創業時は自然とアプリ開発(「ゾンビブース2」)から事業を始めましたが、私はホーンテッドマンションが原体験としてあり、昔から「テーマパーク作り」がしたかったんです。
将来的には「まだ誰も体験したことがないようなアトラクションや施設を作りたい」と思っていたので、アプリで売上は作りつつも、最終的には新しいテーマパークを作っていきたいという考え自体はありました。
2011年当時からMR体験施設への展開を描いていらっしゃったんですね…
会社の転換期 – ディズニーアクセラレータと学び
TYFFON社の「ディズニーのアクセラレータへの採択」は当時大きな反響を呼びました。
アクセラレータプログラムはどのような経緯で知ったのでしょうか。
深澤氏:ディズニーに対して元々憧れがあり、ウォルト・ディズニーは自分のロールモデルの一人でもあります。
そして創業後間も無く「ディズニーがアクセラレータプログラムを始める」と知り、まさに自分たちが受けるべきものだと思い応募しました。
投資家の言葉より、自分の「やりたい」を突き詰める事の大切さ
特に印象に残っている学びみたいなのはありますか?
参加してる時より終わった後の気づきなんですが、1番の学びは「周りのアドバイスはあまり間に受けなくていい」ということですね。
(編集部一同、笑)
メンターの人たちは皆凄い経歴で、色々なアドバイスを頂くんですけど、結局皆言うことはそれぞれなので…
人から「これが成功しそうだよ」と言われたことをやるより、自分の中で「これがやりたいんだ」ということを実現させる方が重要ということに気づけたことが、1番大きな収穫だったと思います。
経営のハードシングス – ハードな環境の中でも
アクセラーレータ後の御社が直面した経営のハードシングスなどお伺いしてもよろしいでしょうか?
深澤氏:厳しかったのは、やはりお金です。
最初のうちはゾンビブースの広告収入で十分利益が出てましたが、プロダクトライフサイクルの問題でアプリの売り上げが減り、内部留保金も減っていく一方でした。
アクセラレータ卒業後「会社の死」を初めて意識
深澤氏:「このままだとマズイな」ということで資金調達を決行したんですけど、資金調達してからは当たり前ですが、お金が残っている間にいかに会社のバリエーション上げていくか?という点を強く意識しなければなりません。
これまで小さく経営していたので「会社が死ぬ」ということはあまり意識してこなかったんですが、資金調達した後は常に会社の死を意識するようになりました。
エンターテイメント×MRの未来を信じてくれた投資家たち。
株式で資金調達すると短期的な利益を求められる一方で、短期利益を追求しすぎると作品のクオリティが下がってユーザー体験を損なったりと、トレードオフになってしまうこともあるかと思うのですが、投資家とのコミュニケーションも工夫されたりしたのでしょうか?
深澤氏:コミュニケーションを工夫するというよりは、会社のビジョンに共感してくれる投資家に参加してもらうことを重要視してきました。
そのためコミュニケーション面で対立することは、有難いことにあまりないように思います。
中橋氏:コーポレート的な苦労は全て深澤に受け止めてもらっていたので、逆に申し訳ないというか…
私はそのことにすごく感謝してますし、自分自身はものづくりに集中させてもらっていたので精神的にきついなと思ったことはありません。
ただ、スタートアップですから体力的にきつかったことはありましたね。
特に立ち上げ当初は2人でやってましたので、2日で2時間しか寝ないとかザラでした。
ただ単に体力的なものなので、私はただ頑張るだけという感じでしたね。
組織が拡大していく中で、チームメンバーのマネージメントで大変だったことはありましたか?
中橋氏:マネジメントはそこまで苦労はなかったのですが、「作品への拘り」と「コスト」のトレードオフに関しては現在進行形で悩み続けてます。
ものづくり企業にとっての永遠のテーマだと思いますが…
「体験した人が一生記憶に刻まれるもの」を作りたい
「クオリティ」と「納期」に対して、どのような価値基準を置いているのでしょうか?
深澤氏:それで言うと圧倒的に、クオリティに振り切っています。
TYFFONは「普通にいいものを作る」ということではなく「それを体験した人が一生記憶に刻まれるものを作る」ことを追求しているので、どれだけ体験を深く豊かなものにできるか?という点について、常に最高水準を追求していると思います。
仕上げるのは大前提として、ギリギリまで「より良くするにはどうすればいいか?」というところは一切妥協しないように意識してますね。
常に体験をアップデートする挑戦的なカルチャー
作品作りに妥協しないという点に関する具体的なエピソードなどあるのでしょうか?
深澤氏:ユーザー体験の質を高めるために、自分たちの経験やケイパビリティを超えた挑戦を常に心がけています。
例えばコリドールとか、かなり無茶したなと今でも思うんですが、もともとスマホアプリを作っていた会社なのに、いきなりVR体験施設を作るというのは結構な飛躍ですよね。
(同社プロダクト「コリドール」の体験の様子)
出来るか出来ないかもわからないけれど、ユーザーにとって「その方が忘れられない体験になる」という確信があったので、とにかくやるぞ!とはじめました。
VRのこともよく分からなかったので、とにかくVRゴーグルをたくさん買ってきて、デバイスの選定から、まだ誰も体験したことのないものを作るために、研究開発の時間も半年くらい取りました。
その頃のVRもフリーローム(歩き回る形式の)VRはあまりなくて、同じところを歩いていても展開が切り替わるみたいなシステム面の工夫もいれたりとか…。
自分の姿がVRの世界で合成されるようにするには、どのカメラを使って実現するか?など様々な部分を手探りで進めました。
中橋さんが複数のカメラを買ってきて同期させたり、ハードウェア的なところまでチャレンジして、ユーザー体験を創り込んで行きました。
御社のことを「ソフトウェアの会社」だと思っていましたが、ハードウェアの知識もないと施設は作れない…というということなのですね。
中橋氏:コリドールも途中から床も振動させたりする演出があるのですが、そこも社内のエンジニアが手探りで進めてくれました。彼はハードウェアの専門家じゃなくてサーバエンジニアだったんですけど(笑)
一から調べて作り上げてましたね。
ユーザー体験への情熱が凄まじいですね。
TYFFON社の組織像 – コンテンツに注ぐケタ外れの情熱と技術力
現在の御社の組織体制を教えて頂けますでしょうか?
深澤氏:今社員は全体で40名ほどで、8割以上をエンジニアとデザイナーが占めています。エンジニアとデザイナーは同じぐらいの割合ですね。
いずれもほとんどが正社員です。
デザイナーとエンジニアの比率が5:5なんですね…しかも業務委託でなく全員正社員とは…スタートアップではかなり珍しいですね…。
意識的に正社員に比重を置いた採用を行っているのでしょうか?
深澤氏:これは、事業やプロダクトが特殊であることに起因しているように思います。
先程お伝えした通り、毎プロジェクトで難易度の高いことや新しいことに挑戦しており「可能な限り質の高いプロダクトを製作する 」という体制を続けています。
そのため短期契約で終わりがちなフリーランスよりも、TYFFONでチャレンジした事を糧に、さらに優れた体験を作っていくような長期的な関わり方をして欲しいので、正社員の比率が多くなりました。
アートとテクノロジーの統合力が最大の強み
御社の「エンターテイメント企業」としての強みは、どういったところでしょうか?
ディズニーに置いてありそうな骸骨のオブジェを愛でる深澤さん
深澤氏:テクノロジーとアート、どちらも高いレベルであり、かつそれらの統合に長けているところだと思います。
テクノロジーとアート、双方のレベルが高いからこそ、どちらも独立したものではなく、「どう組み合わせるとより素晴らしい体験を演出できるのか?」をデザインできる。
プロダクト製作の総合力には自信を持っています。
技術力の高さだけでなく、それを芸術性と融合させる組織の力は、どのようにして磨かれているのでしょうか?
中橋氏:プロジェクトにはデザイナーとエンジニアを同じ比率でアサインしていて、メンバーが優秀なので非常に良いアイディアやディスカッションが生まれます。
例えば、クリエイターはディスプレイに投影する映像は可能な限り美しくしたいし、一方でエンジニアはリアルタイムで動作を反映させるために、フレームレートは追求したい。
具体的には「テクスチャの解像度を上げすぎると画像は綺麗になるが、フレームレートに影響が出てインタラクションの応答が悪くなりユーザー体験が損なわれる」とか、そういったリスクがある中でも、最大限にクォリティを挙げられるポイントを探したりします。
「より良いユーザー体験を、どう作るべきか」を常に議論し、お互いに譲れないポイントをしっかりと言語化しつつ、お互いに学び合い、統合していく。
その結果として「自分たちが絶対の自信を持てるユーザー体験」というアウトプットに繋がっているんだと思います。
それから自分のこだわりとして、良いアイディアに対して、絶対に「できない」とは言いたくないんです。そういうこだわりは弊社のエンジニア、デザイナーさん達も同じだと勝手に思っているんですが。
相互リスペクトとプロダクトへの拘りが素敵ですね。
今働かれているメンバーの方は、どういったバックボーンをもつ方が多いのでしょうか?
深澤氏:非常に幅広いですね。
当初は、デザイナーの方はCG制作など、映像制作の仕事をしている方が多かったです。
今ではスマホゲームアプリを制作している会社や海外のCGプロダクション、他にはアカデミー賞を受賞しているハリウッドスタジオで働いていたメンバーもいます。
多彩なメンバーが続々参画されているのですね。
数字で計らない – プロダクト改善は言語・数字化できない「ユーザーの反応」から
プロダクトを改善していく際に、どういった指標を置いているのかお聞きしたいです。
深澤氏:データドリブンに数字を追わず、感性的なものを指標にしています。
具体的には、お客さんアトラクションを体験している様子を観察し、
- 実際体験している人がどういう風に感情が動いているように見えるか?
- どのぐらいまで自分たちの作品は伝わったか?
- 自分たちの意図したユーザー体験のうち、顧客はどのぐらいまで体験ができたか?
といった形で「お客さんの反応に対して、自分たちの想定や期待値と差分がないか」を検証します。
実際に自分も何度もアトラクションを体験しますし、お客さんの体験している姿を見ていく中で、体験フローや演出の改善点を洗い出し、気づいたものをアトラクションに組み込んでいます。
未知のテーマパークを作る – TYFFONが仕掛けるMRの未来とは
ここからは、御社の今後の事業展開について質問させていただきます。
2019年5月の資金調達の背景から中長期的な展望まで、お伺いさせて頂けますでしょうか。
飲食店・店舗進出は未来への布石
深澤氏:資金調達の目的は、「店舗開発」と「採用」になります。
現在弊社は「TYFFONIUM」という店舗事業を拡大しているのですが、これには相当な初期投資が必要になります。
店舗拡大の方針としては、まずはフラグシップとなるような店舗を主要都市に直営で作ります。
そこからパートナーの企業が見つかり次第、フランチャイズで広げていく予定です。
そして最近はプロジェクトも増えてきており、コンテンツも複数並行で製作する必要が出てきましたので、エンジニアやクリエイターの採用も強化しているところです。
日常と非日常を繋ぐ、MR空間エンターテイメントカンパニーへ
背景の絵は深澤さんが1人で制作した絵画作品(!)
深澤氏:長期的な展望についてですが、将来的にフォーカスしていこうと思っているのはAR、MR領域ですね。
この先必ず、イマーシブなグラス型MRデバイスが普及し「XRで、世界を全て自分の好きなように作り変えられることができる」という時代が来ると思っています。
ARクラウドやAR時代のプラットフォームが整う段階が来るのは時間の問題だと思っているので、その時代が来た時には「世界中の人に届けられる空間エンターテイメントのキラーコンテンツ」を作っていきたいです。
例えば、AR時代のRPGゲーム。
人々はグラス型のデバイスをかけて、平日は通勤・通学中に、レベル上げやアイテム集め、キャラクター集めを行う。そして休日に友達とティフォニウムに来て、ボスと戦うイベントを体験する。
施設の中では床が揺れたり、風が吹いたり、匂いがしたりとか、地形が変化するなど物理的なものもコントロールできるような環境になっていて、そこでしかできない体験ができる。
そんな「日常」と「非日常」を繋ぐMRコンテンツを作っていきたいと思っています。
ワクワクする世界観ですね!そんな世界が待ち遠しいです。
技術や開発視点で、直近の目標や長期的な取り組みがあれば教えて頂けますでしょうか。
技術面では人気デバイスへの対応も行いつつ、ディープラーニングなどの技術も活用していく
中橋氏:最近だと、スタンドアロンVRデバイスの「Oculus Quest」を使った開発も実施しています。
PC向けVRデバイスと比較すると描画精度は落ちるものの、コードレスかつ6DoFのトラッキング能力、そして高解像度のVR体験が可能な点は、体験型アトラクションへの利用においては非常に魅力的です。
ここもまた、「コンテンツのクオリティを維持しつつ、どこまで妥協できるか?」という技術的なチャレンジになると思います。
そして、長期的にはAIの活用を進めていきます。
AIと言っても、認識系・キャラクターAI等色々とあり、コンテンツを自動生成してくれるものまで存在します。
その中で、GoogleとかFacebookなど大きな企業とAIで真っ向勝負しても敵わないとは思います。
その代わり、自分たちのコンテンツを作る中で必要になってくる「より具体的な要求を満たすために必要なAI」があるとしたら、 それをオープンな機械学習フレームワークを利用しつつ他には負けない性能まで上げて、自分たちの作品に活かしていく というのが理想だと思っています。
AIの利用自体は目的ではなく、あくまでも必要に応じた最大活用ということで。
今後のTYFFON社のプロダクトが一層楽しみになりました。
貴重なお話、ありがとうございました!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回はTYFFON社CEO深澤研さんとCTOの中橋英通さんをインタビューさせて頂きました。
顧客の心に残る体験のため、徹底してプロダクト製作を拘り抜くTYFFON社の姿には、業界に関わる多くの方々が共感できるのではないでしょうか。
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XR-Hubでは今後も「XR企業のリーダー達のインタビュー」を通じて、読者の皆さまに有益な記事を提供して参ります。
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