【Spatial Computingの幕開け】Appleが打ち出す「Vision Pro」は既存のVR/MRデバイスと何が違うのか?
2023年6月6日、Appleはゴーグル型デバイスのVision Proを発表しました。
現実とデジタルの世界を結びつける全く新しい「Spatial Computing」として多くの注目を集めています。
この記事では、AR/MR産業の本命とも言えるVision Proの使い方、スペック、評判など1つ1つ解説していきたいと思います。
※この記事は2023年6月28日時点の情報をもとに書かれたものです。
Vision Proとは?
Vision Proとは、2023年6月6日にAppleが発表したゴーグル型デバイスです。
ここでAppleは「Spatial Computing」という新たな概念を全面に打ち出してきました。
発表に際して「AR」「VR」「メタバース」などの表現を使用しなかった点から、Meta Quest2やHoloLens2といった既存のVR/MR端末とは違う全く新しいデバイスであるという意志が感じられます。
それでは、既存のVR/MR端末との違いはなんでしょうか?
それは、Vision Proが「現実とデジタル、仕事とプライベートの世界を区別せずに扱う」ことを重視している点です。
既存のVR/MR端末との具体的な違いとしては、PC接続・コントローラーが不要で、Vision Pro一台で完結する点です。現実とデジタルが重畳された映像を見ながら目や手、音によってアプリケーション操作や文字入力することができます。
Vision Proの使い方
3Dインターフェイス機能によって、ユーザーは目や手、声によってVision Proを操作できます。
例えば、視線を動かしてアプリアイコンを見つめると、選択中のアプリが視覚的に浮き上がったり、動画などのコンテンツがハイライトされます。
2本の指をつまむようにタッチすると起動、指を上下させるとスクロールできます。
こういったハンドジェスチャーは手を足の上やソファに置いたままでも自然な流れで操作できます。
仕事などで細かな作業や高速な文字入力が必要になる場合は、Magic KeyboardとMagic Trackpadによる操作にも対応しています。Macと連携して、「持ち運びできるプライベートな4Kディスプレイのワークスペース」を実現できます。
文字入力の際はボックスを見つめて声を発するだけです。さらにSiriを使ってアプリをすぐに起動したり、メディアを再生することも可能です。
Vision Proの9つの特徴
ここからは、Vision Proの9つの特徴をご紹介します。
Optic ID
Optic IDとは、指紋のTouch ID、顔のFace IDに続く、瞳の虹彩による個人認証システムです。他のIDと同様、Apple PayやApp Storeでの購入、パスワードの自動入力の際にも利用できます。
驚くべきは精度の高さで、一卵性の双子であっても両者の識別が可能です。
マイクロLED
左右二つのディスプレイに2,300万ピクセルの高画素ディスプレイを搭載しています。片目だけで4Kテレビ以上の解像度というのは驚きです。
Eye Sight
Eye Sightとは、従来のVRヘッドセットの懸念点であった「ユーザーの孤独感」や「周囲から見たときの不気味さ、違和感」などを緩和し、日常生活で自然に使えるようにするための機能です。
具体的には、ユーザーの周囲に相手が近づくと、ヘッドセットの内部ディスプレイに相手が映し出されます。さらに、相手からもユーザーが見えるように外部ディスプレイにユーザーの目が映し出されます。
デバイスを装着していても周囲とのコミュニケーションが円滑に取れるような配慮が見られます。
3Dカメラ
3Dカメラとは、現実世界とVision Pro上の映像を重ね合わせた3D写真や3D動画を撮影し、「空間体験」をシェアできる機能です。
3Dカメラで撮影した映像の音声は空間オーディオで収録されます。
撮影中はEyesightに含まれたインジケーターにより他の人に撮影中であることを明示されます。
空間オーディオ
空間オーディオとは、立体的でよりリアルな音響を実現するための機能です。
具体的には、耳の横ではなく周りの空間から音が出ているように感じられます。
また、オーディオレイトレーシングによって部屋のレイアウトや素材を分析し、空間に合わせて音の反響具合を最適化してくれます。
これらの機能により、例えばFace Timeによる通話の際、等身大のタイルに映し出された通話相手が、その場で話しているように聞こえます。さらに、顔の向きを変えても、常にタイルの表示場所から通話相手の声が聞こえるようになっています。
デジタルクラウン
デジタルクラウンとは、デジタル世界への没入度を調整する機能です。
周囲を見ながら作業したい時や映画の世界に浸りたい時など、必要に応じて現実世界の映像の割合を調整する際に役立ちます。オン/オフの切り替えではなくグラデーション的な調整が可能です。
デバイス右上にある「つまみ」で、ディスプレイに表示される現実世界の映像(既存のデバイスではパススルー映像と呼ばれる)の割合を減少させることができます。
デュアルチップ
Vision ProにはR1チップとM2チップの2つのチップが採用されています。このデュアルチップ採用により、Vision Proの静音動作と超低遅延が実現しています。
R1チップとは、新たに登場した半導体チップです。高度なセンサー処理能力を持っており、超低遅延のストリーミング処理を実現します。
具体的には、Vision Proに搭載された12台のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクからの入力を処理して、デジタルコンテンツをリアルタイムで反映します。入力処理から反映までの時間は、目の瞬きの8倍の速さである12ミリ秒以内ということに驚きです。
M2チップは対発熱に優れており、VisionProの静音動作を実現します。MacBook Airにも採用されており、単体でも高いパフォーマンスを可能にします。
プライバシー保護
Vision Proを装着中のユーザーが何を見ているか、どこを見ているかの視線情報は、使用中のアプリにもウェブサイトにもわからないように保護されます。
取得される視線情報は他のAppleデバイスと同じようにクリックやタップといった単純操作の情報のみとなっています。
visionOS
visionOSとは、Vision Proのために設計された新たなOSです。
このOSでは、現実空間に浮かぶウィンドウやアプリケーションを目や手で操作することができます。
また、App Storeからのアプリ提供にも対応しており、100種類以上のApple Arcadeのゲームを大きなスクリーンでプレイすることができます。
価格・発売時期
価格は3,499ドル(日本円に換算すると約50万円)と非常に高価です。
ディスプレイ、カメラ、プロセッサのいずれも高性能な製品を使用していることから、一般消費者は手が出しづらい価格となっています。
発売時期は、米国のApple Store直営店では2024年の初頭、日本を含むその他の国では2024年末とのこと。
評判・レビュー
現状の評判やレビューですが、Vision Proの製品レベルや価格の高さに驚く様子が見られます。
このように、Vision Proは解像度の高さだけでなく空間オーディオ技術まで好評なコメントが散見され、将来性の高さから盛り上がっているようです。
しかし、約50万円という価格設定や、バッテリー使用時の連続稼働時間が2時間という点から購入を見送る声も見られ、今後はいかに一般消費者に普及させるかが課題となるようです。
開発環境について
2023年6月21日、Appleは「Apple Vision Pro」対応の「visionOS SDK」をリリースしました。Vision Pro対応のアプリ開発に必要なフレームワークやツールがパッケージングされています。
SDKに搭載されている「Simulator」と「Reality Composer Pro」によって、以下が可能となっています。
Simulator
アプリがVision Proでどのようにレンダリングされ、動作するかを確認できます。
Reality Composer Pro
visionOS対応アプリの3Dモデルをプレビューできるツールです。3Dモデルに含まれる音声、質感などを確認・修正できます。
ツイッターでは「visionOS SDK」を使用した開発の声が多く寄せられています。
なお「Reality Composer Pro」を使用せずとも、「Unity」でvisionOS対応アプリを作成することもできます。visionOSに対応したUnityが入手できるベータプログラムの受付はこちら
また、7月にはvisionOS向けアプリの開発をAppleがサポートするプログラムがスタートします。本プログラムにより、Vision Proでアプリの動作確認ができる「Apple Vision Pro developer labs」が東京を含む世界6か所で開設されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?Vision ProはAppleにとっても未来を賭けた一大プロジェクトであり、彼らが数十年にわたって培ってきた技術の結晶です。
パーソナルコンピューティングのMac、モバイルコンピューティングのiPhoneに次ぐ、「Spatial Computing」のVision Proが私たちの未来を変えてくれることに期待しましょう!
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