「楽しくて、身近なVRを届けたい」VRアーティスト・せきぐちあいみの制作活動の裏側に迫る
XR業界で活躍しているクリエイターやCxOにインタビューを行うXR-Hubの企画「XR Innovators talk」。
今回は、VRアーティストとして国内外でライブVRパフォーマンスを披露するなど、現在世界中で活躍されているせきぐちあいみさんを取材して来ました。
最近では、テレビ番組の出演やCES2020でのVRパフォーマンスなど、一層活動の幅を広げられているせきぐちあいみさん。
今回のインタビューでは、VRアート制作を始めたきっかけや「VRアート」という未知の領域を切り開くマインドセットなど、制作活動の裏側をたっぷりと聞くことができました。
是非最後までご覧ください!
Contents
VRへの出会いから、アート制作に没頭するまで
今日は宜しくお願い致します。
まずは、せきぐちさんがVRアート活動を始めたきっかけをお聞きしてもよろしいでしょうか。
私がVRを初めて体験したのは2016年、VR元年と言われた年ですね。
たまたまVRを体験する機会があり、「わ、空中に絵が描けるなんて魔法みたい!楽しい!」と感動しました。
最初は知り合いにデバイスや機材を借りながらでしたが、空いた時間にVRアート制作をするようになり、そこからはどんどんのめり込んでいきました。
ひたすら制作し、SNSにアップすることを続けていくうちに、お仕事の依頼を頂くようになって。
もちろん最初の作品なんてクオリティは全然高くなったので、自分としては「作り直そうかな…」「SNSに投稿するほどでもないかな…」と思う作品ばかりでしたが、友人に見せると「こんなアート見たことない!面白い!」と感動してもらえて、試しに公開してみると予想以上に毎回反響は大きかったんです。
なので、SNSに公開するかどうかの判断基準は自分では持たず、ボツだと思う作品も積極的に公開していきました。
1日8時間?制作活動に没頭する日々
無我夢中で作られていたんですね…。
制作活動には毎日どれぐらいの時間を費やしていらっしゃったのでしょうか?
そうですね…。今でもですが、当時から1日8時間ぐらい練習していましたね。
8時間!?
はい。(笑)
適宜休憩はとっていますが、やり始めると、楽しくて時間を忘れて練習しちゃいますね。
当初は慣れなかったのでヘッドセットを外した瞬間にどっと疲労感を感じることがありましたが、徐々に疲れにくくなりましたね。
VRアートは立っても出来るし、座っても出来ます。
自由な体勢で制作できる分、疲れずに制作を続けるコツが分かってきたのだと思います。
仕事にしていける確信は、1ヶ月で芽生えた
「VRアーティスト」を本職にすることは、いつ頃ご決心されたのでしょうか?
VRアート制作を初めて1ヶ月以内には、自分の中で「この領域で勝負できる」という確信が生まれました。
具体的な収入の予想をした訳ではありませんが、VRアート・ライブペイントが
- 自分が純粋に楽しめる領域であること
- 周囲の人も楽しませる、喜ばせることができること
という特徴があって、であればエンターテインメントやアート領域の仕事に繋がっていくだろう、と感じたんです。
2016年の春にVRアートを始めましたが、その年の夏にはイベントに出演させて頂けて、その後も順調にオファーが増えていきました。
ここまで色々な国に呼んで頂いたり、テレビに出演させて頂くことまでは想像できませんでしたが…。
この先もっと良いものを作るために、不完全な作品も公表し続けた。
先ほどもお伝えした通り、絶えず、ボツかもしれないと思うものも発信したことが色々なことに繋がっているんだと思います。
とにかく多くの作品を出していって、
「この作品は好評だった」
「この作品はリアクションが悪かった、あまり相手にしてもらえなかった」
という形で反応を集めて、次回の作品に生かすようにしました。
辛辣な意見もありましたが、それらの評価は紛れもない事実で、受け止めるしかないんですよね。
「 私は今「すごい、格好良い」って思われたいんじゃない。この先で良い作品を作ることが目標だから、厳しい生の意見も受け止めよう。 」と覚悟を決めました。
一人で籠もって制作し、自分と向き合い続けることが悪い訳ではないですが、私は様々な意見と向き合って制作活動を続けることでクリエイターとして成長できていると思っています。
思わず「キツイな…」と感じるような意見もあったのでしょうか?
まず、応援してくれる方々がほとんどですし、一見厳しい意見に対しても、「キツイな…」って私が感じることは、正直ないんですよね。(笑)
例えば、「お前がすごいんじゃない 、ソフトとデバイスがすごいんだ」みたいな意見を頂いたことがありますが、それは誰よりも私が感じていることです。
そもそも、開発者の方々をはじめとした、本当に多くの人の知恵が詰まったVRという素晴らしい技術があって、私は今自分の表現でVRを活用させてもらっています。
直感的に描けるVRアート自体の面白さやデバイスの安定性など、
多くの人に、少しでもVRに興味を持ってもらいたい。
あとは稀に衣装について意見を頂くこともありますが、視覚的なアピールでもいいから、まずは興味を持ってもらい、結果的にパフォーマンスやVRアート作品を見てもらえたら、VR業界全体としてもユーザーが増えて盛り上がりますよね。
VRデバイスの中には無限の世界が広がっていますが、外から見ているだけだと分からないという側面もあります。
なので、衣装も興味を引いてもらえる最初のきっかけになれば良いなと思ってVRの世界観に近い衣装を制作して着ているんです。
様々な意見をポシティブな形に昇華するお姿に、ご自身の覚悟の強さが伺えます…。
VRアート・ライブパフォーマンスの魅力とは?
せきぐちさんは、VRアート・ライブパフォーマンスのどういった点に強い魅力を感じているのでしょうか?
直感的にアート空間を生み出せる楽しさ
クリエイター目線でいうとVRアート自体の魅力としては「空間に自由な3Dアートを生み出せる」という魔法のような体験ができること、そして消費者側の目線でいうと「作品の世界に入れる」という体験性でしょうか。
1つ目はVRアートを制作する上でのVRアートの魅力で、絵を描いているというよりも寧ろ「世界を作っている」という感覚があり、それが新しくて、何よりも楽しいんです。
そして2つ目は「絵の体験・鑑賞」という観点です。
従来の絵画は「外から鑑賞する」ということが前提でしたが、VRアートであれば最終的に絵の世界に入ることができます。
いずれも直感的、本能的でとっても楽しい体験だと思っています。
なるほど、制作から作品鑑賞まで、従来の絵画に無い体験ができることが魅力なんですね…。
プロセスを楽しんでもらう – ライブペイントを研究し続ける理由
せきぐちさんは、アート作品のみならずライブペイントのようなパフォーマンスも印象的です。
VRアートは未だ体験・鑑賞方法がスマホやPC、タブレットに限られがちなので、作品だけディスプレイ越しに展示してもCGっぽく見えてしまいます。
なので、ライブペイントを通じて、私が実際にお客さんの前で体を動かして「こういう風に立体に描いているんです」っていうのを見てもらい、「あ、こうしてVRの世界が出来上がっていくんだ」とイメージを掴んでもらいつつ、制作プロセスを楽しんでもらうようにしています。
曲と合わせて短時間で制作したり、あえてダイナミックな動きで制作しますが、それはプロセスの時間を短く、楽しく感じて欲しいから。
そうなると作品自体のクオリティには満足行かないこともありますが…。
見ている人がイメージを掴みやすく、楽しくなるライブペイントは常に研究しています。
ライブパフォーマンスを続ける|アート活動における拘りとは
VRを広めていくために 自分の役割を全うしたい。
なるほど、ライブペイントも常に研究されているんですね…。
はい、今は必ず展示とセットでライブペイントもするようにしています。
じゃないと、お客さんに伝わらないし、ライブペイントの方が楽しんでもらえますよね。
XR業界には本当に幅広い方々がいらっしゃいますが、業界を創っていく中でそれぞれ役割があると思っていて、私の役割は「一般の方々にも分かりやすく、楽しんでもらいながら、VRを広めていくこと」だと思います。
ハンドトラッキング とか、解像度とか、業界で話題になるような技術的なはまだ一般の方々には届きづらいけど、私がライブペイントで立体的なアートを制作することで「今、こんなに技術が進化しているよ」「VRを使うとこんなことができるんだよ」っていうように、直感的に訴える形でVRの進化や魅力を伝えることが出来ると思うんです。
だからライブペイントの時は短時間で出来る限り専門用語は使わずに制作していて、VRを「よくわからないSFの世界」じゃなくて、「楽しくて、身近なものなんだ」という感覚を持ってもらうことを大事にしています。
もちろん、私はアーティストとして作品自体を楽しんでもらいたい、という思いも勿論ありますが。
そこまで精力的に活動されるモチベーションの源泉は、どういったところにあるのでしょうか。
感謝と恩返しですかね…。
私は2016年、VR元年に初めてVRをたまたま体験できたことが本当にラッキーだと思っていて、そこまで積み上がってきた技術があったからこそ、私はデバイスを活用して自分のキャリアの中で新しいステップを作ることができました。
VRは便利だし、人生を豊かにする技術なので、他の人にとってもVRに触れる一歩目、きっかけを作れたら良いなと思っています。
新しい技術はほとんどの人にとって難しいし、不慣れだけど、しっかり誰かが寄り添って教えてあげることで便利なツールとして使いこなしてもらうことができる。
だから私は、とにかく分かりやすく、VRを楽しんでもらいながら広げることを今後も続けていきたいと思います。
「人に喜んでもらってこそ成功」という活動の原点
なるほど、VRこれまでの制作活動の中で、うまく行かなかったケースとかはあるのでしょうか?
私としては、ライブペイントをしてみて、お客さんが楽しんでくれていれば「上手くいったな」って思いますし、リアクションが良くなければ「上手く行かなかった」と感じますね。
媚びているとか、誰かに合わせているとか、妥協しているとかではありませんが、 自分にとってのアーティスト活動の原点は「人に喜んで欲しい」っていう想いなので、人からの反応が良くないと、嬉しくないんです 。
この考え方ってあまりアーティストっぽくないかもしれないですけど…。
あくまで自分が好きなようには描いていますが、人に喜んでもらえないと自分の中では成功とは思わないですね。
道無き道を探求する – 前例のないチャレンジの原動力
VRアートは前例がない未知の領域ですが、手本がない中でどのように成長して行かれたのでしょうか?
お手本がないことは大変なことが多いですが、全て自分で模索する楽しさが上回っていますね。
書き方やエフェクトなど実践しながら学んでいて、描いたり、描いた後に自分の作品の細かい部分のクオリティをチェックして…ということを繰り返しています。
「この場合はこう描く」といったルールや教材がないからこそ生まれる自由な発想もあって、この何もない環境を最大限楽しんでいますね。
師事されている方や先生のような存在はいますか?
いないですね…。
ただ、あらゆるものから学ぶようにしています。例えば、盆栽、生花、日本庭園とかでしょうか。
空間設計の美しさ – 歴史的文化から受けるインスピレーション
なるほど、日本文化からインスパイアされることもあるんですね。
はい、日本文化を代表する芸術って特に空間設計が美しくて、どの角度から見ても完成されているんですよね。
あらゆる角度から見られることを想定していて、絶妙なバランスで設計されてて、盆栽とか本当に奥が深いんですよ。
これはVRアート制作をする上でも非常に勉強になります。
あと、他にも日本庭園などに見られる特徴ですが、非常に贅沢に空間を使いますよね。
広い空間に、あくまで厳選されたオブジェクトを配置する。
これはVRアートも同じで、「描くものが多ければ良い」という訳ではありません。
作画のテーマ次第でもありますが、伝えるべきことにフォーカスするようにしています。
私の作品は日本庭園や美しい日本の景観をテーマにした作品が多くて、評価を頂くことが多いですが「海外ウケしたくて描いている」という訳ではなく、あくまで自分が好きだから。
空間の美しさに重きを置いた日本の造形や美徳が好きで、それらがVRと相性が良い。そして自分で描いていても非常に楽しいので、良く題材にしています。
デジタルにおいても、”人の温かさ”感じさせるアート作品を残したい
私最近和太鼓にハマっているんです。
和太鼓って縄文時代から存在してると言われていて、人類最古のエンターテイメントなんですよね。
VRアートを沢山の人に楽しんでもらいたいと考えた時、時代を超えて残り続ける和太鼓という文化に何かヒントがあるんじゃないかと思って。
イベントで和太鼓を使った演奏とコラボレーションする機会があって、「ちょっと叩いてみる?」って聞かれた事をきっかけに太鼓の練習をするようになったのですが、太鼓に人の「温かみ」を感じるんです。
そういう情緒や趣きをVRペイントでも表現していきたくて、例えばライブペイントと生演奏とのコラボレーションはとても良いなと思うんです。
作品に「人の温度感」を補ってくれるから。
「デジタルで描かれたVRの絵」にもそういう”人の温かさ”を取り込んでいけたら良いな 、と思っています。デジタルだからこそ人の温度を感じさせてたいということですね。
自身のテーマのために和太鼓という畑違いの文化圏まで関わっていく行動力…本当にすごいです。
せきぐちあいみの今後 – AR/MRアートへの挑戦
せきぐちさんの今後の活動の活動方針をお聞きしたいです。
今後は、AR/MRアートにも挑戦していきたいですね。
すでに何度かHoloLens2とかを使ってトライしていて、最初は上手く描けなくてストレスを感じることが多かったのですが、徐々に良い作品を作れていきそうな感触は出てきましたね…。
まだ実験段階ですが、後々しっかりと形にしていって、面白い取り組みを始めて行けるんじゃないかと感じています。
ちなみに、HoloLens生みの親・アレックス・キップマンもMRアートを「楽しみにしているから、出来たら教えてね」と言ってくれています。
現実空間とリアルタイム性から、「その場だからこそ生み出せる感動」
クリエイター目線で感じる「VRと、MRの違い」はどのようなポイントなのでしょうか?
MRは現実世界の空間を生かしながら作品を作れるので、「現実を彩ることができること」がワクワクします。
ライブペイントでVRアートを制作する場合、動きや幅が制限されるんですね。
VRのヘッドマウントディスプレイを付けていると周囲が見えていないので、激しい動きや現実の空間を巻き込んだアート制作は出来ません。
これがMRグラスになると「ライブペイントの幅が広がるな」と思っていて、周囲が見えているので、その空間を生かした作品やお客さんを巻き込んだ作品を作ることができます。
例えばですが、誰かの結婚式で、結婚式の最中に式場全体を使ったアートをしてみたいです。
式場をアートで装飾したり、主役の新郎新婦の周りに二人を祝福するペイントをしたり、描きながら式場にいる人とのコミュニケーションを楽しむことができれば良いなと。会場にいる全員が思わず幸せな気持ちになるような制作ができたら素敵ですよね。
非常に素敵なアイディアですね!
「その場・空間」を生かしたMRならではのアート作品、今後楽しみです!
これからVRアートを始めたい、という方へのメッセージ
これからVRやMRを使ったアート制作を始めたい、という方々に向けてメッセージを頂けますでしょうか。
まずは、自分でやれることから始めましょう、ということです。
「私もVRアート始めたいんですが、何から始めれば良いですか?」というような質問を頂くことがあるのですが、それぐらいであれば調べればすぐに出てくるんですよね。
なので何も調べていない状態で質問されても、答えられないです。ごめんなさい…。(笑)
ただ、調べても出てこないことや分からないことは沢山あるから、そういった質問には必ず答えます。
例えば、「このデバイスとこのデバイス、こういう作品を作る場合どっちがおすすめですか?」とか「デバイスを使っていたらこういう問題が発生したのですが、何か対処法知りませんか」といった質問には、私が知ってる限りであれば答えます。
VR業界って困っている人を助けてくれる優しい文化があって、私自身何度も助けられたので、本当に困っている人がいれば私もしっかり力になりたい。
ご自身が助けられた経験というのは…?
タイのイベントに参加したときですね。
「設営でこんなトラブルがあって、こんな感じで色々試したのですが、上手く行きません。どうしよう…」みたいなツイートをしたときに、「センサ―の横に、なんかLEDがついてるから、それ消してみたら?」といった形で様々なアドバイスをいただけて、なんとかイベントを乗り切ることができました。
特にVRアートを始めた当初は分からないことだらけで、いろいろな人に助けてもらいながら活動していましたね。
ツイート1つから様々なアドバイスを頂けるとは…。
親身になってくれる方の多い、非常に優しい世界です。
積極的に自分の作品を発信して欲しい
VR業界は頑張っている人にとことん優しい世界だから、「今、こんなことに挑戦しています」とか、「こんなことやろうと思います」みたいな内容をどんどん発信していくべきかな、と思います。
Twitterとかで自身のVRに関する作品や活動内容を報告している人であれば、「試行錯誤しながら挑戦しているんだな」って伝わりますし、みんなそういう時期が必ずあったから、「力になりたい」って思うんですよね。
だから、まだ「自分の作品はSNSには載せられない」「自分はまだVRのことは全然分かっていないから発信できない」って躊躇するんじゃなくて、ありのままの姿を出していけば良いんです。
VR業界の人からすると、VRについて何も知らなかった方がVRに興味を持って、クリエイターとして成長していく姿自体にも興味があったりする訳です。
VRに少しでも興味がある人が、一人一人、ありのままの姿でいることが大事だと思います。
VRアートにこれから挑戦する方にとって、非常に勇気付けられるメッセージだと思います。
今日は非常に貴重なお話を、ありがとうございました!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回はVRアーティストとして世界中で活躍されている、せきぐちあいみさんをインタビューさせて頂きました。
「XR×アート」という未知の領域を、独自のセンスと凄まじい努力で切り開き続けるせきぐちさんの、今後のご活躍を応援して行きたいと感じられる方も多いのではないでしょうか?
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XR-Hubでは今後も「XR企業のクリエイター・リーダー達のインタビュー」を通じて、読者の皆さまに有益な記事を提供して参ります。
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