Digilens社 Digilens Crystal解説|サムスン・ナイアンティックから資金調達したベンチャー
アメリカのディスプレイメーカー「Digilens」社が開発するARグラスが「Digilens Crystal」です。
スマホの『次の』デバイスとして注目されているARグラス。マイクロソフトの「HoloLens2」の発売も迫る中、世界有数の名だたる企業から多くの投資を受けている「Digilens Crystal」が今、熱い注目を浴びています。
今回の記事では
- デバイス開発元「Digilens」社の概要
- Digilens社に多くの投資が集まる理由
- 「Digilens Crystal」のスペック・基本情報
- 「Digilens Crystal」の4つの特徴
といった点を取り上げます。
最先端のガジェット好きだけではなく、これからの新しいスタンダード・モデルにもなりうるARグラスに関心がある人には必見の内容です。お見逃しなく!
Contents
Digilens社の事業領域・経営メンバー
「Digilens Crystal」について調べる前に、「Digilens Crystal」を開発した「Digilens」の概要や「Digilens Crystal」を開発するに至った経緯などについて見てみましょう。
会社概要・経営メンバー(CEO、CTOなど)
「Digilens」はJonathan Waldernによって2003年に設立された(当時の社名は”SBG Labs”。現在の社名への変更は2015年)、ARディスプレイを開発・製造する企業です。
アメリカ・シリコンバレーに拠点を置く「Digilens」社は、航空宇宙や自動車、企業、軍事、消費者向けなどの様々なアプリケーション開発やライセンス販売を行っていますが、その中でも得意としているのが、導光板ディスプレイ(waveguide displays)と呼ばれる製品の開発です。
会社の経営メンバーは以下の通り。
- CEO:Christopher Pickett
- CTO:Jonathan Waldern
- CFO:Michael Angel
- COO:Ratson Morad
参考:導光板ディスプレイとは
導光板ディスプレイはガラスの側面から入れた光を拡散させて、表面に均一に光を出してディスプレイ化する技術のことです。
通常のバックライト型の液晶のように裏面に光源を置く必要はなく、ディスプレイ自体も透明なため、現実世界の中に映像を表示させるARに最適のディスプレイとされています。
導光板ディスプレイ自体は以前からありましたが、「Digilens」の技術が優れているのは、導光板の反射部分をガラス板に直接映し出すことができることです。これによってAR対応ディスプレイをより効率よく、より明るく、より低コストで、より早く組み立てることが可能になりました。
DIgilensの開発領域
「Digilens」社は現在、光学フォトポリマーやホログラフィック印刷ツールのライセンスをメーカーに供給する他、航空宇宙や自動車向けのARウェアラブル開発を行っています。業界全体でARの技術開発が加速度的に進む中、「Digilens」社は拡張現実ディスプレイ技術とフォトポリマー素材を用いたARウェアラブルの開発に積極的に取り組んでおり、ライセンスを取得したOEMやODMパートナーと協力しながら、様々な業種へのAR製品の提供を行っています。
特に「Digilens」社はヘッドアップディスプレイ(HUD)を日常生活に重要な役割を果たすツールとして捉えており、その開発に取り組んでいます。
参考:ヘッドアップディスプレイとヘッドマウントディスプレイの違い
「Digilens」社が開発に取り組むヘッドアップディスプレイ(HUD)。しかし、世間一般により浸透しているのはヘッドマウントディスプレイ(HMD)という名称かもしれません。
この両者にはどのような違いがあるのでしょうか?
- ヘッドマウントディスプレイ(HMD):Head Mounted Displayは、その名の通り頭部に装着するディスプレイ装置のことです。Oculus RiftやPS VR、マイクロソフトのHoloLens2などが相当します。目を完全に覆う「非透過型」や「透過型」など、様々なタイプが存在します。
- ヘッドアップディスプレイ(HUD):Head-Up Displayは、人間の視野に直接情報を映し出す手段のことです。もともと軍事用として開発され、現在では工業分野や製造分野での利用も広がっています。
広義に言えば、HMDもHUDも大きな違いはありません。しかし、HMDが頭部に乗せる(マウント)装置で、それを装着することによってVRなどの世界に『入り込む』ことが主な目的(HoloLens2はMRディスプレイなので若干異なる)なのに対し、HUDはディスプレイに様々な情報を映し出すことによって、その他のモニターに『目を落とす』ことなく、視線を『上げる(アップ)』ことを主な目的とするデバイスということができます。
ナイアンティックも!Digilensに投資した企業とその背景を考察
2019年10月現在の「Digilens」社が世界各国の有力企業から引き受けた投資額は、8,500万ドル(約93億円)にも上ると言われています。
【Digilens融資元会社】
- Continental:ドイツ自動車メーカー
- ナイアンティック:「ポケモンGO」開発元
- 三菱ケミカルホールディングス
- ソニー
- 鴻海
- etc
これらの錚々たる企業が「Digilens」に多額の出資を行う理由はどこにあるのでしょうか?
その点について、三菱ケミカルホールディングスは「従来の受注待ちの態度からARデバイスの材料開発でリーダーシップを取るため」と説明しています。
技術力は今後ARハード市場を牽引する可能性を持つ
ARの技術や市場規模はまだ熟成していませんが、逆に言うとこれからさらなる市場の拡大が見込まれるということでもあります。
実際、ARとVRを合算した世界における市場規模は2018年時点で270億ドル(約2兆9700億円)、2022年には2,087億ドル(23兆円)にまで達すると見込まれています。
ARは次世代につながるテクノロジー、もしくはスマートフォンの『次のデバイス』とも呼ばれています。
そうした確実な成長が見込まれる市場で確固たる地位を得るためには、世界トップの技術と資本力との融合が不可欠。
「Digilens」社はARディスプレイにおける、独自で世界最先端の技術力を持つため、ARデバイスに注目する多くの企業から強い関心を寄せられているのです。
三菱ケミカルホールディングスは「Digilens」と共同して、AR画像を投影するプラスチックレンズを開発しています。
ガラスよりも軽量で低価格のプラスチックレンズは、壊れにくくて扱いやすい、安全な部品として、きっとAR時代を牽引する存在となるでしょう。
さらにARは様々な業種や工業分野での利用も大きく見込まれています。
産業ごとに用いられている機材や部品は様々ですが、それらを扱う人間が身につけるデバイスは限られています。
独自の技術を持ち、ARグラスの開発能力の高い「Digilens」社に多くの企業が注目し、実際に投資しているのもある意味当然のことと言えるでしょう。
「Digilens Crystal」の基本情報
では、Digilens社が供給する「Digilens Crystal」に関する基本情報から解説していきます。
Digilens Crystalのスペック・価格
ARに注力する「Digilens」社が開発する最新ARデバイスが、「Digilens Crystal」です。
「Digilens Crystal」は2019年1月にラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「Consumer Electronics Show(CES)」で発表されました。2019年末までの提供開始を予定しています。
「Digilens Crystal」の最大の特徴は、薄く、軽く、扱いやすいことです。
Oculus RiftやマイクロソフトのHoloLens2などのデバイスは、ディスプレイ本体が処理能力を施し、液晶部分に画像を投影してVRやAR画像を再生させますが、「Digilens Crystal」はCPUやバッテリーなどをグラス本体に内蔵しません。
そのため、 「Digilens Crystal」本体の重量はわずか80グラム程度。
上の写真にあるように、普通のメガネやサングラスと変わらないデザインのARデバイスが誕生したのです。
「Digilens Crystal」の軽量デザインを実現したのが、上で紹介した導光板ディスプレイです。通常のバックライト液晶のように裏面に光源を置く必要はないため、とても自然でスマートなグラス型のデバイスを開発することが可能となりました。
Digilens Crystal 基本スペック
- CPU:なし
- 視野角:30°
- バッテリー稼働時間:連続5時間稼働(接続したスマートフォンのバッテリーを使用)
- カメラ:8MP(800万画素)
- 重量:85g以下
- 価格:500ドル(約54,000円)
「Digilens Crystal」の特徴⑴スマホアプリが操作可能
「Digilens Crystal」の薄型・軽量デザインを可能にしたのが、バッテリーやCPUなどを内蔵しない、『非独立型』のシステムを採用したことによります。
「Digilens Crystal」はあくまでディスプレイであり、本体としての役割は「Digilens Crystal」に接続したスマホに委ねます。
スマホに接続することを前提とするため、当然の流れとしてスマートフォン用のアプリが利用可能です。産業や教育、流通における活用はもちろん、まさしくこれから始まる5G通信と合わせて、個人ユースでのゲームアプリの利用にも高い親和性を持つとのこと。
「DigiLens」のCEO、Chris Picketts氏によると「DigiLens CrystalはCPUやバッテリーなどのガジェットに必要な部品を排除し、スマートフォンに処理を行わせることで軽量化を実現した。同時に、アプリもAR用だけではなく、スマホ用のアプリを制作すれば事足りる」と述べています。
ARデバイスにスマホアプリを組み合わせるメリットは想像に難くありません。
たとえば、自動車の運転時。
これまでは道案内にナビを利用してきましたが、表示を確認するためにはどうしても視点を下ろさなければなりません。
ところが、「DigiLens Crystal」を装着すれば、目の前のグラス表示部分に必要な道路標示やナビゲーションを重ね合わせることが可能。視線を全く動かすことなく必要な情報を入手し、自分の作業に集中できることがヘッドアップディスプレイの最大の利点なのです。
しかも、スマホ用のナビアプリをそのまま利用すれば、新しくアプリを開発する手間も省け、製品の普及を促進させることもより容易になります。
ユーザーは「Digilens Crystal」とスマホをUSB-Cポート経由で接続させますが、2019年9月現在、対応するスマホは発表されていません。
「Digilens Crystal」の特徴⑵OEMで展開予定
「DigiLens Crystal」はOEM(他メーカーのブランド名で製造すること)による生産を予定しています。
生産の際には「DigiLens」社の技術やノウハウをライセンス供与され、その企業のブランド名で発売されることになります。
【ライセンス提携企業】
- Texas Instruments
- DLP Pico Products
- Young Optics
- Waveguide Manufacturer
- Malata
「DigiLens Crystal」をOEM展開するメリットは、製造に必要な設備や資本を抑え、その分開発に専念できることにあります。
また複数のメーカーに「DigiLens Crystal」をOEM供給することによって、AR市場における製品のシェアを高めるといった計算も働いていることでしょう。
さらに「DigiLens」社ではAR時代に向けた新しいアプリケーション開発を行っており、そのアプリ開発にも多くのパートナーをARアライアンスに招待しています。
「Digilens Crystal」の特徴⑶Waveguide Displayによる広い視野角
視野角が低いと画面の表示が見切れてしまい、不便なことはもちろん、使用時の違和感も大きくなってしまいます。
「DigiLens Crystal」のスペック上の視野角は30°となっており、これは初代HoloLensの視野角と同程度となっています。
しかし、「DigiLens」社はこの現状のスペックに満足せず、さらなる改良を図っています。
「DigiLens Crystal」にはより広い視野角を得られる「Waveguide Display」を採用することなどによって、より広い視野角のARデバイスを開発中。
近い将来的には150°まで視野角を高めるということを表明しているため、今後の発表にも期待したいところです。
「Digilens Crystal」の特徴⑷ARグラスの中では群を抜く低価格
「DigiLens Crystal」の販売予定価格は500ドル(約54,000円)。
同じくAR表示が可能なマイクロソフトの「HoloLens2」の価格が3,500$ドル~(約38万円~)となっていますから、「DigiLens Crystal」の価格の安さが際立っています。
「DigiLens Crystal」の低コストを実現できたのは、独自の導光板ディスプレイの採用や、処理能力をスマホに委ねるなどの割り切った設計思想によります。
ARデバイスの普及の鍵を握るのが、販売価格にあることは言うまでもありません。
「DigiLens Crystal」は500ドルという低価格で発売することによって、ARデバイスでのシェアトップを目指しているのです。
まとめ
次世代のデバイスとして注目を集めているARグラス。
そのARグラスの中でもシンプルなデザインと低価格、さらにスマホアプリが使える利便性など、「DigiLens Crystal」の特徴は大きなストロング・ポイントとなっています。
AR/MRデバイスの本命と目されているマイクロソフトの「HoloLens2」ですが、やはりその価格の高さが一番のネック。
スマートでどんなシーンでも使いやすい「DigiLens Crystal」は、個人ユースでの利用はもちろん、様々な産業分野にも一気に普及する可能性を秘めています。
2019年末の発売が待ち遠しい「DigiLens Crystal」。
引き続きその動向に注目していきましょう!
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