現実世界をエンタメ空間に!ENDROLLが周遊型ARの先に描く展望とプロジェクトの裏側


XR-Hubによる、XR業界の先駆者と知を共創するコンテンツ「XR Innovators Talk」第6弾。

今回は、AR×エンターテイメントで話題の、ENDROLL社 CEO前元健志さん、COO大島佑斗さんに取材させて頂きました!

 ARサービスにおける泥臭いオペレーションの苦労経験や新卒のエンジニアで構成される開発組織、将来の事業ロードマップ までXRに携わる人にとって参考になるお話をたっぷりとお話頂きましたので、是非最後までご覧ください!

ENDROLL創業までのストーリー

XR-Hub編集部)早速ですが、御社が「AR×エンタメ」という領域で創業された背景を教えていただけますでしょうか。

「 Game as Life 」を実現するために、エンタメ領域で創業を決めた

前元氏:ENDROLLを立ち上げた僕とCOOの大島、そしてCTOの加藤は学生時代、NPO法人AIESEC JAPANの同期でした。

社会人2年目のある日、大島・加藤と久しぶりに集まって飲んだ際、三人が共通して「働く中で、自分たちは今ゲームの主人公感が無い」という感覚を抱えていたんですね。

学生時代にNPO法人で働いていた頃は、 自分たちが「難易度の高いゲームをクリアしていく主人公達である 」といった感覚があり、だからこそ高い目標でも愚直にコミットしながら、楽しんで働けていたのですが、社会人になってその感覚を失ってしまっていたんです。

でも、自分たちはやっぱり主人公感をもって働きたいし、世界的にもそういった考えを広げていき世界をゲーム化していきたい。 いわば「 Game as Life 」を実現したいと思い、3人でエンターテイメント領域で創業しました。 

ハードウェアと通信 – 2つのマクロ環境からARを主戦場に

ゲーム・エンターテイメントの中でも「AR」に絞ったのはどういった理由からでしょうか?

大島氏:VRではなくARに絞った理由は、日本のマーケットとARの「相性の良さ」になります。

まず、日本国内はiPhoneなどのiOS端末の普及率が非常に高い。

VRはハード側の制約からユーザーが限定されますが、iOS端末向けにARKitでアプリを開発すれば、多くのユーザーが気軽にAR体験することができるため、国内におけるAR市場のポテンシャルは非常に高いと言えます。

加えて、Wi-Fiや4Gの通信環境が全国的に整備されているため、今後日本のAR市場は間違いなく急速に成長すると想定し、ARに絞りました。

この市場の黎明期にプロダクトを作り、テクノロジーの進化とともに一層ユーザーに親しまれていく、「スーパーマリオ」のようなタイトルを作りたいんですよね。

そのためにも、今のフェーズからより多くの方に使って頂き、壁打ちとアップデートを繰り返して国民に親しまれるコンテンツを作っていきたいですね。

「渋谷パラレルパラドックス」「アソビルパーティ」のプロジェクトの裏側

なるほど、ありがとうございます。

「渋谷パラレルパラドックス」の開催を通じた課題感や運営における苦労した点をお聞きしてもよろしいでしょうか。

前元氏:まず、「渋谷パラレルパラドックス」について簡単に説明すると、2019年の5〜6月に渋谷で開催したAR×周遊型謎解きゲームです。

スタート地点でアプリを起動すると物語が開始。そこからプレイヤーはストーリーに沿って実際に渋谷の複数箇所を周遊し、各箇所に設置されたARマーカーであるポスターに表示されるヒントを元に謎解きを楽しんでもらう、というものでした。

パラレルパラドックスでの反省:屋外・ロケーションベースのエンタメのビジネス拡張性の低さ

前元氏:渋谷パラレルパラドックスで感じた課題感としては、「ロケーションベースのエンターテイメントのビジネス拡張性の低さ」でした。

具体的には

  1. 「屋外の周遊型」という特性上、利用者数が天気や通行人などの外的要因に大きく左右される
  2. 現場オペレーション用に多くの人的リソースが必要

という2点です。1点目は想定の範疇でしたが、2点目は我々の想定を上回るものでした。

例えば、1箇所のARマーカーに約10人のユーザーが集まった時があり、みんながマーカーを読み取ろうとしてしまうことでマーカー付近がカオスな状況になることがありました。

ユーザとしても不便ですし交通の妨げや周囲の迷惑になりかねないので、マーカー付近には常に人員を配置する必要があるんですよね。

大島氏:加えて、「管理体制・オペレーション整備」という点も苦労したポイントです。

渋谷パラレルパラドックスでは、レジでの現金管理体制やオンライン予約・iPhone貸出オペレーションなど多くの管理体制やオペレーションを整える必要がありました。

1から決める必要があったので、プロジェクト実施前に整備しつつ、プロジェクト実施後も状況に応じて都度調整しました。

泥臭い部分も参入障壁として積み上げ、テクノロジーの力で拡大を狙う

大島氏:このオペレーションの改善は大変な側面もありつつ、見方を変えれば今後の参入障壁になると考えています。

一見すると泥臭く非合理的な業務も多いため、根性が試されるビジネスですが、腰を据えて地道にオペレーション改善に取り組み続けられるのは、「この業界で勝負する」と腹を括っている僕たちならではだと考えています。

ARであれば、既存のビジネス課題を解決できる

前元氏:従来の周遊型コンテンツはその場所にしかない看板や垂れ幕などを利用しており「その場所である必然性が高い」という課題がありました。

例えば、渋谷のビルを対象にした周遊型コンテンツの場合、「実際のビル内の看板の模様とキットを照合し、謎を解く」といった形で企画されるため、コンテンツが「その場所である必然性」が非常に高いんです。

一方でARの場合だと、全てのトリガーマークがARマーカーであることやGPSで周遊の誘導を行えることから、場所の制約を受けにくく複数箇所での開催が可能です。

つまり、従来の周遊型コンテンツの、1箇所・1度での開催に限られてしまうというビジネス課題を、ARというテクノロジーを活用することで解決できるのです。

2019年7月から横浜駅直通の複合型体験エンターテインメントビル「アソビル」で始まった「アソビルパーティ」は、この複数箇所での開催をテーマとし、複数施設で展開しています。

週1回の頻度で子供たちにユーザテストを実施。その理由は?

なるほど、渋谷パラレルパラドックスの反省点がアソビルパーティに繋がっているんですね。

渋谷パラレルパラドックスやアソビルパーティの開発面での工夫は何かありますか。

大島氏:アソビルパーティの開発において、週1回という高頻度で子供たちにユーザテストを行った点ですね。

AR開発においてユーザのフィードバックが重要になりますが、特に子供たちのフィードバックは非常に貴重なものになります。

というのも、子供たちはARコンテンツに対して偏見なくプレイし率直な感想を教えてくれるので、ARに対する前提知識がない状態の人でも楽しむことができるコンテンツを作りやすくなるのです。

ただ、子供のフィードバックには具体的なアイデアや提案はないので、「いかに彼らのメッセージを汲み取り、具体案に落とし込むか」は苦労しました。

AR開発の正解は開発側よりもユーザ側に存在する

前元氏:AR開発において弊社で最も重要だと考えていることは、AR開発の正解は開発側よりもユーザー側に存在するということです。

基本的に僕ら開発側が考えてる中に正解はなくて、 「数字と、実際にユーザーが目に触れた瞬間が神よりも正しい」 という前提でAR開発を進めることが大切だと思っています。

そして、「コンテンツに対して自分たちが一番懐疑的である」ことも大切にしています。

結局のところ、ARがそこまで普及していない現在において、クリエイターや開発側にとって満足するコンテンツが増えたところでARは発展しないと思っており、ユーザが満足するコンテンツを増やしていくことが大事なのです。

ENDROLLの開発体制・組織文化

続いて開発に関する質問なのですが、1プロジェクトに対してどのような開発体制を取っているのでしょうか。

1つのプロジェクトは3人の開発チームで3ヵ月以内に納品

前元氏:まず、社内の開発メンバーはエンジニアが3人、ゲームエンジンも触れる3Dグラフィッカーが1人、アニメーターが1人の計5人が所属しています。

その中で、エンジニア1人・3Dグラフィッカー1人・アニメーター1人の3人で開発チームを組み、クライアント折衝やディレクションを担当するディレクターが1人の計4人で1プロジェクトを進めます。

1プロジェクト1エンジニアなんですね。

そうなると、どれくらいの期間で1プロジェクトが完了するのでしょうか。

内容によって期間は異なりますが、いかなるプロジェクトも3ヵ月以内で企画からリリースまで完了させてきました。

弊社の現在のフェーズは、1プロダクトを深掘りしていくというよりもコンテンツを量産するフェーズなので、社内で複数のプロジェクトが並行して進んでいます。

例えば、渋谷パラレルパラドックスとアソビルパーティの間は2ヵ月しかなかったので、並行で進む期間が数か月存在しました。

今後も並行するプロジェクトの数がどんどん増えていくので、エンジニアの数が課題になりつつありますね。

エンジニアは全員新卒!従来の開発手法を知らないが故のメリット

エンジニアの方々はどういった経緯で入社されたのでしょうか?

前元氏:これは弊社の特徴にもなるのですが、エンジニア3人とも新卒です。

学生時代にエンジニアのインターン生として働いてもらい、ビジョンやカルチャーがフィットしてそのままジョインしてくれた形です。

この 開発経験が乏しい新卒という要素が逆にAR開発において上手くワークしている と思っています。

というのも、AR開発は従来のサービス・アプリ開発以上に様々な知識が必要で、技術の総合格闘技の要素が強くなります。

そのため、従来の開発手法では上手く行かない場合はよくある中で、新卒の場合従来の手法を知らないため逆にフラットな視点で考えることができており、AR開発に適した手法を的確に選択できていると思っています。

エンジニアが全員新卒というのは驚きです。新卒をARエンジニアにするためにどのような育成方法を行っているのでしょうか。

大島氏:エンジニアの育成やマネジメントは弊社のCTOが主に行っています。

そもそもCTO自身が社会人時代に1からエンジニアになったという経験があり、その時に構築したノウハウや自身の体験をメソッド化し、流用してます。

価値基準が明文化された、カルチャーの強い組織

組織としてとても特徴的な部分ですね。他にも組織の特徴となる部分はあるのでしょうか。

大島氏:我々はXR関連企業の中でも、非常にカルチャーが強い組織だと思っています。というのも、創業者3人でのチーム歴が今年で8年目になるため、自分たちが組織を作る上で必要なことや大切にしたいことの言語化がとてもスムーズに出来るからです。

例えば、Heroismと呼ばれる明文化された自分達の価値基準があり、Heroismに沿って判断したことであれば、承認を得ずとも取り組んでよいというカルチャーがあります。

ENDROLL社の文化・価値観を5つのフレーズにした「Heroism」。

この文化のお陰で、メンバー全員が自立自走することができており、組織全体として素早く、また「ENDROLLらしい」意思決定を行うことが可能になっています。

このようにカルチャーが非常に強く根付いた組織なので、「この人はENDROLLっぽい」「この人のこのトライはやりすぎ」など齟齬なくコミュニケーションでき、例えば採用活動の際にも失敗確率が下がっていると感じています。

ENDROLL社の展望 – GaaSと室内3D情報のクラウド化と局所的な位置ゲームの展開

室内3D情報のクラウド化で勝機を見出す

では、今後どのように事業を展開して行かれるか、お聞きしてもよろしいでしょうか。

前元氏 今後は、GaaS(Game as a Service)で商業施設での体験の向上を進めつつ、室内3D情報をクラウド化するソリューションを展開していきたいと考えています。 

そのためにまず「アソビルパーティ」のように、ゲームをサービスとして導入した商業施設を増やしていきます。

様々な商業施設に入れてもらうことで多くの室内3D情報を集積し、それに適したUX構築ができるようになるので、店舗の中の周遊導線を解析し、購買導線の最適化や二次購買の促進など、空間の最適化を提案できるようにしていきたい。

そしてこのサービス展開と共に、周辺地区や施設だけで体験できる「局所的かつリッチな位置ゲーム」を創り出し、この位置ゲームを体験できる場所も増やしていきたいと考えています。

社内で文化と、拡大に向けて欲しい人材とは

なるほど。ゲームから入りつつ、室内空間の分析ソリューションの抱き合わせは興味深いモデルですね。
今後の採用像などはもうすでに決まっているのでしょうか?

前元氏:僕たちが採用で最も大事にしているのは、ARという技術を用いてユーザの生活や体験を大きく変化させることにワクワクでき、その中でもエンターテイメントへのワクワクが強いかどうかです。

「AR技術に興味があるから」というレベルではなく、もう一歩踏み込んだ「AR技術を使ったエンタメで大きな変化を作りたいから」という意気込みがある方に是非仲間になっていただきたいです。

大島氏:また、CXOクラスを目指そうと本気で思っている人材も欲しいと思っています。

このCXOを言い換えると、ENDROLLという会社に留まらずARエンタメという新規市場を自らの手で開拓していく覚悟がある人ですね。

この業界の先駆者になることを一緒に志す方と一緒に働いていきたいです。

非常に貴重なお話の数々、ありがとうございました!

ENDROLL社は現在共にARエンターテイメントの未来を作る仲間を募集中していますので、気になる方はこちらから応募してみてください!

まとめ

最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございました!

今回は「ARエンターテイメント」という分野のパイオニアであるENDROLL社に取材させて頂きました。

先駆者として走り続けながら、ARクラウドに先んじて室内3D情報をクラウド化していくという偉大な挑戦に取り組まれている姿が大変素敵に感じました。

この記事を読んで少しでも「ENDROLL社を応援したい」と思った方はぜひ、記事のシェア(ここをクリック)して頂けたら幸いです。

XR-Hubでは今後も「XR企業のリーダーインタビュー」といった読者の皆さんにとって有益な記事を提供して参ります。


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